まだ、さよなら 空に瞬く満天の星々。障害物の何もない真っ暗な空に明るい星が輝いていた。 「ねぇ、エース。」 甲板で名前を呼ぶと、隣に座る男は軽い返事を返す。こうやって過ごすのは、何度目の夜だろうか。 「私、この船から降りるよ。」 そもそも自分がこの船に乗り続ける理由はない。この船の船員になれないのに、それでも船に乗り続ける事を許してくれる皆であっても、そこは譲れなかった。 「このまま船に乗ってたって誰も何もいわねぇよ。」 「私は、白髭の娘にはなれない。」 この船は血のつながりのある娘、なんて必要としていないから。それに、血の繋がらない息子達と一緒にいるほうがオヤジらしいと思えてしまうから。 「誰も、何も言わないけど。 だからこそ、降りるのよ。」 贔屓されている、なんて思わないけど。 きっと自分は彼らの絆を曖昧にさせてしまうから。 「もう、決めたんだな?」 「うん、もう決めたの。」 「ナマエ、俺・・・っ、」 顔を真っ赤にしながら、彼は何かを必死に言おうとする。でも、それを聞いたらこの船を降りられなくなると解っているから。衝動的に、唇を塞いだ。いきなりのことに目を見開いた彼。それでも彼は拒むことはしない、逆に薄く開いた唇から舌を絡めてくる。 「・・・っは、っ・・・!!」 呼吸を奪いあうような激しいキス。次第に息も続かなくなって、2人は顔を見合わせて唇を離す。唇から零れるのは荒い呼吸音だけ。 「・・・いつ、降りるんだ?」 息を整えながらエースは足早に問いかける。 「・・・明日の夜。オヤジに言ったら、明日お別れ会やるからってきかなくって。」 「そりゃ、盛大だな。」 「・・・飲み過ぎなきゃいいけどね。」 そういうと、エースは笑う。 「・・・次、会うのはいつかな。」 「まだ目の前に居るのに、そんな事言うの?」 「俺は、ナマエがいねぇと寂しいよ。」 そう言うエースの頭を撫でると、子供あつかいするなと怒られる。でも、そういって照れるところが子供らしくて私は好きだったりするのだが。 「でも、お前が決めたんだったら、俺が邪魔しちゃ駄目だよな!」 「エース、あのね・・・私の、」 「頑張れよ、ナマエ!」 髪の毛をいたずらに弄っていた手がふと止まる。思っていたより、私よりずっと大人だったエースが笑いながら言った言葉に、己の言葉を飲み込んだ。 (私の船に、一緒に、) そう誘おうと思っていた。でも、そんなにあっさりと応援しているなんて言われたらもう引き下がるしか無いではないか。誘っても一緒に来てくれるとは思ってもいなかったから、なんて言い訳を自分の中でつけて唇を動かす。 「・・・うん、エースも、頑張りなよ?」 「当たり前だ、俺は2番隊の隊長だからな!」 カンパネルラにさよならを 例え道は違えても、きっと先は繋がっているから。 それでも、だから今は、まださようなら。 back ・ top |