中編:海賊♀ | ナノ


留められた視力


ちくり、 瞳に違和感を感じたのは、急遽シャボンディパークから撤収した直後。船医に聞いてみたところ、光を直接瞳に浴びた為に目が異常を示したものらしい。

「っち・・・で、この包帯はいつ取れる?」

ぐるり、と目から光を遮断するように巻かれた包帯の所為で、視力は全て遮断され、歩くことすらおぼつかない。不便だ、と愚痴っても一向に自体は変わらないと分かってはいるのだが。

「一週間様子をみましょう。」

そういわれてスタートした生活は、やはり見聞色の覇気で補っても不便である。戦闘となればいつものようには行かず、部屋の中に籠もっていなければならないし、ただでさえ溺れやすい風呂では毎回なにかしらで一悶着あった。

「あー・・・暇・・・」

ひとりで出来ることがほとんどない上に、暇つぶしになるものはほとんど出来やしない。とりあえず魚人島行きも先送りになり、まだシャボンディパークにて潜伏している状態である。時々海軍兵がうろうろとしているようだ。(まぁあの様な事があったから仕方ないだろう)大体の海賊が捕まり、黄猿が撤退し、現在シャボンディは警戒中といいながら、目の前の海賊には目もくれない。 勝ち目がないと分かるとそれは視界から外れてしまうらしい。負傷中の自分であれば多少力のある佐官、将校クラスなら捕まえられるんじゃない? とのんきに構えながら、パブで暇つぶしの会話をしながら酒を煽る。

「・・・、」
「・・・やぁ、おニィさん。 昼から良いの?」

自分のことはさておき、お堅いイメージのあったこいつが昼間から酒とは少し似合わない。まぁ勝手に作ったイメージであるが、思えば男と初めて会ったのは酒場だというのに変な話だ。視界が包帯で覆われているから残念なことに隣に座って居るであろう男の表情は分からない。

「・・・今日は、飲みに来た訳じゃない。」
「へぇ、そんなに傷が深かった? そちらも大変な事になってたみたいだね。」

知らずに傷口を押さえているのだろう、その動きからするとかなり手酷くやられたようだ。

「俺のはすぐ直る、動物系は治癒力も他より高いからな。 お前は大丈夫なのか?」
「んー・・・、光に少し焼かれてるかな。 うちの船医は腕が良いからなんとかなるでしょ。」

笑いながら酒に手を伸ばして喉にそのまま流し込む。焼け付くような熱さが喉に丁度いい。 酒はこのくらいでないと飲んだ気がしない。

「・・・そうか。」
「それで、心配でここまで見に来てくれたって事でいいのかしら?」
「ああ、そう言うことになるかもしれないな。」

トン、と事務的に出された水をカウンターから受け取り、男は一気に飲み干した。

「大丈夫、見えなくなったりは多分しないから安心して。」
「・・・そこは気にしていない。 おまえのところのやつは腕が良いんだろう?」
「そうね。」

そう言って頷き、あの後の話をいくつか話し合う。 話を聞くに、男の出立は怪我が直り次第ということでかなり送らせることになったらしい。

「・・・港で、お前の船がコーティング作業をしているのを見た。」

もう出発するのか、と暗に言う男に苦笑する。きっと目がまだ直らない内に出発するのかと言いたいのだろう。

「一週間したらとりあえず包帯が外せるみたいなの。そしたら出発するつもりよ。」
「そうか、早いな。」
「でも予定より長引いたわ。 始めのコーティング、騒動で壊れちゃったんだもの。」

ついでに船の修理も必要だったから、目のことを差し引いても予定以上にこの島に留められた。

「そうか、残念だ。」
「そう? きっとまた近い内にあえると思うわ。 だって海は広いようで狭いもの。」

それに目指しているところは一緒なのでしょう? そう言えば前の男は、呆れたように溜息を吐いたようだ。音のみしかないから大体の推測で男の表情を予測してみたが、大体あっているだろうか。

「でも、もうちょっと滞在時期を伸ばしたいかもしれないわね。」

男の視線がこちらに集まるのが分かり、耳の後ろがざわついてしまう。いつ以来だろうか。 こんなに自分からまた会いたいと思うような男に会ったのは。

「どういう意味だ?」
「んー・・・、思ったより見えないのが辛いと思っただけよ。」

澄み切った海の綺麗な青色。 これから同系色の風景を見に、海底に向けての準備を進めるので、海の青色なら幾らでもこれから見ることができるだろう。だが、目の前の男の瞳だけは一旦海に出てしまえば当分は見られない。

「残念ね、貴方の青が見れないなんて。」
「なら、早く治す努力をすることだな。」

出立の日には見送りしてやる、なんて笑うように言う男。 これだから色男は、と呟いた唇に何かが触れる。それが何が、なんて見なくったって分かる。 

「本当、残念だわ。」

今の貴方の顔が見たかったのに。そう言えば男は苦笑して頭を撫でるのだった。


留められた視力


title by 約30の嘘

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