中編:海賊♀ | ナノ


それは既に病気


「なぁ、ナマエ 。」

ふ、と思い出したような口調でローは言った。彼らしいと言えば彼らしすぎてこちらはいつだって苦笑するしかないのである。大抵、そんなときはくだらない戯れ言だったり、夢のような話。今回もそれと同様のものだ、と言いきってしまえばその通りなのだが。

「お前が死んだら、さ。」

もし、と言う名の絶対的未来。 生きている限り逃れられない死という影。それを"もし"と仮定した上でのお話だとしても笑えない冗談だ。

「剥製にしていいか?」
「綺麗に死ねる予定がないのでご遠慮します。」

にっこりと綺麗な笑顔で酷く歪んだ言葉。今までに船長につれられて色々した分、綺麗に死ね無い事は知っている。きっと自分の死に場所は戦場。切り刻まれ、踏まれ揉まれ潰されて、原型を止めていたとしても。丘の上の人間のようには綺麗に死ねないと知っているから。そもそも綺麗な死に方なんて求めても居ないのだが。

「俺が綺麗に繋いだら、いいんだな?」
「それでも、今とは違うでしょうよ。」

その答えに少し悔しそうな顔で顔をしかめて船長は小さく呟く。

「でもよ、海に全部くれてやるには随分惜しいんだ。」

海賊としての葬送の仕方では遺体は基本、海に流す。海賊は海の子であるのだから、火葬されようがどうなっていようが、海に帰る。だが、ローはそれでは嫌だという。
" お前は、海賊で有る前に俺の物だ "随分と可愛らしく、残酷な言葉。 それでも愛しいなんて思う自分は相当である。

「海なんかにお前をやってたまるか・・・」

少し泣きそうな顔で縋るように腰に手をまわす愛しい船長。それでも、貴方の言葉に私は頷くことは出来なかった。

(ロー以上に、私は強欲だから。)

どうせなら身体だけとはいわず、記憶の全てに私を止めて欲しいなんて言えない。鮮烈な死に様で、貴方の記憶にずっと残ればいい。死んでしまったら好きにするといい、あとからホルマリン漬けにされようが解らないのだから。だから死んでしまうまではきちんと"もし"なんて言わず私を見て?

「じゃぁ、こうしましょう。」

船長の腰の上に身体を落とし、鎖骨を指でなぞる。

「"身体は海に沈んでも、心は此処においていくから"」

どこかで聞いたような台詞、なにかの恋愛小説だったか、演劇だったかは定かではないけれど。

「戯言だな。 生憎、俺は見えない物は信じない質でね。」
「言うと思った。」
「医者だからな。」

科学者と同じく、物理的に見えない物、科学的な根拠の無い物は信じない。それが私の船長。

「本当、勿体ねぇなァ。」

海にくれてやるには、なんて何度も天井を仰いで繰り返す。


『全部、俺の物なのに。』


その台詞に戸惑っている間に背中に感じたやわらかい感触。気付けば布団に身体を縫いつけられていた。上に覆い被さるようにした船長の黒い2つの目が私を捕らえる。

「ロー・・・」
「いっそ、全部喰っちまうっていう選択肢も有るな。」

そんな事を言いながら、浅黒い船長の手が器用に服を解いていく。

「また馬鹿なことを・・・」

そう返すと、冗談だよと彼は笑った。


「もし、私が死んだら。」

剥製にしても、食べても、なんでもいいから。心も体も、ぜんぶ全部あげるから。

「貴方の心なかに私を残して?」

忘れないでいて。何度もそう喘いだ私の身体に、いくつかの歯形を残して船長は溜息を付いた。

「お前を忘れる事のほうが、難しい。」


それは既に病気


忘れてと泣かれても、きっと忘れられないから



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