中編:海賊♀ | ナノ


愛されすぎて眠れない


手を伸ばして、見つからないように、掴む。掴んだそれは、まだ新品の黄色のツナギ。

「よっし!」

船に乗ったのは随分前になるのだが、着ることの無かった服。別にそんなに着たいデザインではなかったのだが。仲間が増えるにつれ、その中で孤立していくようで嫌だった。かといって、“おしゃれできないからツナギは着ない”の発言を撤回も出来ず、現在に至る。

「ぶっつけ、こっそりアレンジしてしまえば・・・」
「何してるんだ ナマエ?」

声のする方を見やると、黄色のパーカーをラフに着こなした船長の姿。

「せ・・・っ、船長!!」
「2人っきりの時は?」
「・・・ロー。」

にやにやと笑う顔が、こちらを見つめている。

「着ないんじゃなかったのか? それ。」
「別にっ・・・着ないとは言ってないしっ!!」

手に持っていたツナギをぱっと奪われ、咄嗟に奪い返す。

「じゃぁ、着てみろよ。」

ローが手を離したときに、笑いながら言った。

「ッ・・・!! 今日はもう着ないの!」
「着ろ。 船長命令だ。 それとも仕置きが良いか?」

仕置き、の言葉に身体が強ばる。この前は胴体と首を切り離されてキスされた。その前は五体をバラバラにされて空中で何度も放り投げられた。・・・嫌な思い出しかない。

「・・・ナマエ? 答えは?」
「・・・あいあい、ロー船長。」

そのまま部屋を出ていかない様子の船長の身体を部屋の外に押し出す。

「・・・何だ?」
「着替えるから、出てって!!」
「だれもお前の無い胸じゃ欲情しねぇって・・・「黙れ。」・・・ったく、着替えたら呼べ。」

・・・扉の前に船長の気配。なんだかんだ言って、律儀に誰も入ってこないように見張っていてくれるらしい。手に持つツナギに腕を通して、サイズを確かめる。基本男物のサイズで出来上がっているそれのサイズとしてはSでまだ大きいくらい。

「うーっ、どうせなら船長みたいなパーカーならコーデしがいもまだあるって言うのに・・・」

だぼん、としたツナギはどう着ても可愛いとは思えない。棚の一番奥のところに黄色と黒のコントラスト。取り出してみるとやはり船長のパーカーと同じ。

「・・・・・・お揃いか、かわいくないツナギか・・・」

迷ったのは一瞬。着てみてから考えようと、袖を通してみた物の。

「ぴったり・・・ってあの人、ほっそ!!」 

女性と体型ほぼ同じってどういうこと? すごくうらやましい。

「もういいか?」

扉の向こうからする声。

「え、あっ、ちょ・・・!! まだ下はいて無いっ・・・駄目ぇえええええ!!!」
「ったく、大人しくツナギ着るかと思ったら、おれのパーカーか、ん?」

止めた物の、あまのじゃくな船長は入ってくる。 上から下まで眺めてから、嫌みったらしく言ってくる船長。これならださいツナギの方が良かった気がする。パーカーの丈の長さが、唯一救い。

「だから・・・っ、下穿きたいから出てってよね!!」

パーカーを伸ばしながら言っても逆に下から覗き込もうとする始末。

「・・・そんなにツナギ嫌か?」
「・・・っ、」

少しへこんだように、眉をさげながら気弱に言う船長。なんか、ちょっと、かわいい・・・かも。 母性本能ってこういう感じ?

「・・・とりあえず、ツナギは嫌です。」
「俺のパーカーは?」
「船長とお揃いっていうのが、嫌です。」
「解った。」

言い過ぎたかな? ちらり、と船長の方を見やれば、いつものにやにやとした顔。

「そぉか。 なら、両手あげろ。」
「・・・?、はい?」

大人しく両手を上げると、上半身からすぽんとパーカーが脱げる。

「・・・!!」
「そんなに嫌なら、何も着なくて良いぞ?」
「それは、いかがなものでしょうか。」

その答えに、にっこりと笑う船長。船長の眉間にはうっすらと皺。・・・相当怒っていらっしゃる。

「そうか、残念だ。」
「せ・・・船長?」
「たった今、お前の仕置きが決まった。」

“その格好で明日まで俺の部屋監禁”

「ぜ・・・絶対に、嫌、ですっ・・・!!」
「お前に拒否権なんてねぇ。 今夜が楽しみだなぁ!!」
「・・・っつ、ベポたん助けて!!」

愛されすぎて眠れない

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