中編:海賊♀ | ナノ


絶対に言わない


「ナマエ 、良い夢見れたか?」

朝食のパンにかじりついていたときに、横から声。隣に腰掛けた男は自分の皿からソーセージを攫って笑った。

「・・・いきなり何? あとそれ私の。」

ひょいっと相手の皿にあるソーセージをフォークで突き刺して口元へ。相手が苦笑しているが、そんなことは気にしない。つまりおあいこ。 ザマアミロだ。

「・・・俺はなんか港にうっかり置き忘れられる夢見たんだが。」
「何勝手に話進めてるの。ペンギンが言ったとして、私も言うとは限らないんだけど。」
「えっ、普通そこは言うだろ。」
「えっ、意味分かんない。」

というかペンギンを置いていくなんて事は絶対にない。だって船の針路握ってるのペンギンじゃん。なんて突っ込むよりかは私は普通に朝食を食べる事に集中したい。

「初夢とか・・・信じてない方か?」
「・・・半々って所。 験を担ぐっていう意味合いでは結構信じてるけど。」
「うっわ、ドライだな。」

自分の皿の上をあらかた片づけてから、小言混じりに相手の皿をつつく。サラダのプチトマトを口に入れようとした所で、後ろから殺気。結局トマトは口に入る事無くフォークごと床に転がった。

「おい、なんか楽しそうな事やってるじゃねぇか。」

低血圧の癖に連日読書に嵌っているのだと徹夜ばかりしている船長が、普段より血色の悪い顔でにっこりと笑いながら椅子を後ろに倒した為だ。しこたま背中を打ち付けた私としては、不意の衝撃で声も出ない。

「朝から見せつけてくれるじゃねーか。 カップルか、お前らは。」
「・・・食いしん坊が俺の皿からおかずを奪ってただけだ。断じてそんな気は俺にはない。」

そもそも俺のタイプはもうちょっと色気があって胸のある・・・という所まで聞いて、舌打ちした。襲われても困るけど、「無い」とばかり連呼されると流石に苛つく。あえて言うが平均はある・・・と思う。 理想のモデル体型な麦藁の所とかと比較しないで欲しい。

「・・・というか聞いてくださいよ、キャプテン。」

椅子からひっくり返ったままの自分を差し置いて2人は事も有ろうに、そのまま会話、引いては朝食をしだしてしまったのだ。ちくしょう。倒れたままだとなんだか私だけすごい馬鹿みたいなので、床から起きあがって椅子を正せば、2人がにやりとした顔でこちらを見遣る。

「・・・で、お前の夢ってなんだったんだ?」
「・・・悪い夢でした。以上。」
「あ、"初夢って悪い夢だと人に話すといい"って島のばーちゃんが言ってた。」

そう口を挟んできたのはシャチだ。 こいつは毎回めんどくさい情報だけ提供してくる。ほら、船長が口元あげはじめちゃってる。コレ完全に私、悪戯の対象になっちゃってるじゃない。

「・・・あー・・・島に取り残される夢?」
「おい、それは俺の夢だ。」
「・・・悪い夢だったら話せ、良い夢は言うなって言うじゃないですか。」

つまり言うと叶わなくなる、つまり予知夢のようなものだと古い言葉がある。まぁとりあえず良く覚えていないから完全に話せと言われると辛いのは事実だが、今日の寝癖の跳ね具合からして、悪い夢でなかった事は事実である。

「・・・つまり、良い夢だったと。」
「・・・まぁ、そうだと思います。 覚えてないので。」
「それじゃあ俺は聞かない。」

もっと粘ってくるかと思った船長はそのまま朝食を口に運び出す。

「・・・聞かないんですか?」
「聞いて欲しいのか?」

夢を叶えたくないなら、聞いてやるが。そう低血圧気味の顔で船長は租借しながら呟く。

「・・・船長は、」
「俺は言わない。 良い夢だったからな。」
「・・・そうですか。」

フフ、と上機嫌に笑う男は、フォークを目の前の私に向かって突き出し、"お前が居たぞ、"なんてすこぶる笑顔で言ったのだ。


絶対に言わない


「で、内容は良いから、誰が出てきたのかだけ言え。」
(・・・・船長には絶対言いたくない。)


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