嘘吐きは嫌いです 何故か手を引かれていた。先ほどまで自分の命を狙っていた賞金稼ぎだというのにも関わらず、男は手を離さない。 「離してって、言ってるでしょ!!」 「なら、その刀で俺を切ってみればいいんじゃね?」 刀を向けて威嚇はするものの、相手は笑うばかり。 当然だろう、とばかりに首に片方の手をわざとらしく当てる男。 「・・・!! 出来るんだったら、とっくにやってる。」 先ほどの戦いで、力の差は歴然だと思い知らされたばかりで気が向かなかったのも事実。 気紛れだろう男は何故か手を引いて己を船に連れ込んだ。船に一歩踏み込むとローに手を離され、自分より大柄な男達に囲まれる。ローは口笛なんか吹かしながら、上機嫌で甲板に用意されていた己の椅子に腰掛けていた。 「改めて、俺はトラファルガー・ロー・・・って知ってるよな?」 「賞金稼ぎですから、知ってますよ。そのくらい。」 それに有名ですし、と付け加えるとローは口の端を酷く愉快そうに上げる。 「俺も、お前を知ってる。 "辻斬り"のナマエ、だな?」 黒い瞳が私を捉える。今まで見てきた海賊達よりは幾分か小柄な体格に似合わぬ、鋭い瞳。 「私を、どうする、つもりですか?」 どの答えにせよ、自分に都合の良い答えは貰えないと解っている。船員と目の前のローの隙を狙って海に飛び込んで逃げるしか方法はまず無い。 「さぁ、気まぐれで連れてきただけだったんだがナァ・・・ 気が変わった。」 俺は気分屋なもんでよぉ、と付け加えられた言葉に言葉を失う。 「ようこそ、ハートの海賊団へ。 歓迎するぜ、辻斬り屋ァ!」 ああ、頭が痛い。そもそも、何でこんな支離滅裂な言葉で誘われなければならないのだろうか。会話の流れさえ掴めない、きっと重度の薬物中毒者かなにかなのだろう。 「私は、貴方が嫌いです。 よって、お断りします。」 船員の中でも一番弱そうなキャスケット帽の男を突き飛ばして、海に飛び込んだ。・・・はずだった。気付けば、まだ自分は船の上に居て、自分の背後から水音が上がった。 「ったく、ざまぁねえな!!」 「船長、酷いっすよー!!」 海から這い上がる男と、目前のトラファルガーに挟まれ、周りを他の船員に囲まれる。にっこりと凶悪な顔で見つめられれば、もう逃げられないのだと理解できた。 「あぁ、残念だな、辻斬り屋。」 逃げられなくて、と笑うから質が悪い。 「俺は、お前が大好きだよ。」 「私は、嫌いです。」 恐怖か、恋か。 胸の動悸が早く鳴るのを聞こえないフリをして諦める。 真実は、後で解れば良い。 嘘吐かないで 吐くなら上手く (仕方ないから、騙されてあげようか) back ・ top |