不器用な君の攻略法
花宮くんに告白して、付き合うことになった。
最初は『少し考えさせてほしい』と保留になったけれど、次の日にはきちんと返事をくれて。とてもとても嬉しかったんだよ。
「花宮くん、あのね」
「悪いななし、ミーティングがあるんだ」
同じバスケ部の原くんや山崎くんにからかわれながら、部活に向かう花宮くんを見てズキリと胸が痛くなった。
付き合う前は、普通のクラスメイトとして話す程度だったと思う。うちのバスケ部はあまり評判は良くないけど、花宮くんはクラスに馴染んでいた。いつも気怠げで、だけど頭の回転は早くて、自分の立ち位置を理解していたからなのかもしれない。そんな花宮くんと話す機会なんて多くはなかったけど、少なくはなかった。そういうところから恋が始まったんだと思うけど…。
「なんだか、ぎごちない…」
そんなクラスメイトとしての関係でいた頃より、告白した後の関係のほうが会話が少なかった。話しかければちゃんと答えてくれるけれど、今みたいにするりと流されてしまう。どうしたらいいんだろう。もっと話す機会を作るとか?でも、花宮くん忙しそうだからまた…。
と、ここまで考え込んでいたら部活終了のチャイムが鳴り響く。外はもう暗くて、長いこと教室にいたんだと慌てて帰り支度をする。…もしかして、花宮くんも帰るのかな。廊下から見えた体育館ではバスケ部が集まってたし、校門で待ってみようかな。
「…ななし?」
「は、花宮くん」
「まだ帰ってなかったのかよ」
「ちょっと、用があって遅くなっちゃって…」
「……そうかよ」
もしかして花宮くんにはお見通しだったのかな。眉を寄せて歩き出した花宮くんの後を追いながら考える。迷惑そうだったな…。自転車で通り過ぎていくバスケ部の人たちが花宮くんに声をかけて帰って行く。簡単な返事しかしないのは、同じバスケ部の人たちも私も変わらないみたいだし、嫌いというわけじゃないのかも。少し早歩きして、隣に並んでみる。
花宮くんは私から離れてしまった。
ああ、もう…だめかもしれない。
本当は、告白なんて困ったのかな。
嘘ついて待ち伏せみたいなことも、イヤだったのかな。
花宮くん、本当は言い辛かったのかな。
「花宮くん、ごめ」
「悪い、ななし。付き合うとか経験ねぇし、こういう風に言うもんじゃねぇってのもわかってるんだが…」
謝罪から始まった花宮くんの言葉にじわりと涙が出てきた。そのまま花宮くんのこと見ていたらこぼれ落ちてしまいそうだから、足元を見て必死にこらえる。
花宮くんに無理させててごめんね。それでも、自分が謝る花宮くんはとても優しいね。たくさんのありがとうとごめんなさいでいっぱいになってしまった私の前に差し出された花宮くんの手。
「手を繋ぐ、ぐらいしか恋人らしいことが思いつかねぇんだ」
「……え?」
「ッチ…だから、それ寄越せっつってんだよ」
スカートを握りしめていた私の手を奪い取った花宮くんに、耐えきれなかった涙がぽろりと落ちた。ぎょっと目を開いた花宮くんが慌ててポケットに手を突っ込んで、ハンカチで乱暴に顔を拭かれた。
「…まだ早かったか?」
「違くて、私…花宮くんに避けられてるって思ってたから…」
「…んなわけねぇだろバァカ」
花宮くん曰わく。
バスケ部は評判が悪い、ましてや主将兼監督だから部員との接触も多い花宮くんと付き合うことで私もそういう目で見られないか心配で、なるべく人のいるところでは会話を避けていたらしい。
今日は部活で遅いのに待っていてくれて嬉しい半分、暗い夜道を歩かせることに罪悪感があって、ましてや汗臭い自分に近付かれて照れくさかったんだとか。
「勘違いしてごめんね、花宮くん」
「お互い様だろ」
「…好きだよ、花宮くん」
「知ってる」
冷たい言葉を吐く顔はほんのり赤くなっていて、それでも繋がれた手は少し汗ばんでて。
あんなに悩んでたのに、今こうして花宮くんと一緒にいられることが嬉しくて、幸せいっぱいだった。
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