クリソプレーズの誓い



「ななしちゃんのことは、本気で本気なの!」

その言葉を信用して、原君とお付き合いを始めたのは、ついこの前のこと。

それだというのに、私は女の子と親しげに話している原君を先程見かけてしまった。

女の子は見るからに原君に気がある様子だった。

原君は、いつもどおりチャラチャラしていた。

これは、浮気というものなのか?

自分的には、原君に猛アタックされた自負があるのだけど、あれは嘘だったの?

だとしたら、絆されてしまった私は笑い者も良いところだ。

考えても答えは出ないので、取りあえず様子見といこう。

けれど悲しいことに、それから何度も他の女の子といる原君を見かけることになるのだった。

不信感と不安感と寂しさが募っていく。

せっかく両想いになって、お付き合いしているのに。

バスケ部が忙しいのはぜんぜん良いんだけれど、他の女の子といるのは別の話。

そんな時間あるなら私と一緒にいてほしい、と思ってしまう。

けれど、この気持ちを彼に伝えることはないだろう。

原君は、重い女とか束縛とか嫌うタイプだから。

いつから私はこんなに欲張りな女になってしまったんだろう。

考えていると、視界がジワリと滲み出した。

*****

****

***

「ななしちゃーん、明日、部活ないんだけど、遊びに行かない?」

悩みだしてから暫く経った頃、突然そう誘われた。

なんだか、とてもルンルンしている。

「…うん、分かった」

そう答えると、原君は余計にルンルンしだした。

誘われた日の夜、放課後デートの前日。

私はあることに思い至ってしまう。

もしかして、このデートを最後に、フられてしまうんではないのか、と。

最後の思い出に、的な?

やっと別れられるー、って喜んでたの?

そう考えると、すごく不安で悲しくて怖くて、明日が来なければいいのになんて思ってしまう。

嫌な思考は、頭にこびり付いて離れてくれない。

お陰で眠れなくて、翌日の授業はフラフラで受けたのだった。

嫌なことだからなのか、放課後はすぐにやってきた。

教室で帰る支度をしていると、原君が来た。

急かされて荷物を纏めると、早々に原君は私の手を引いて学校を後にした。

「どこ行きたいー?」

歩きながらそう聞かれる。

「あ、えっと、考えてなくて…」

「んじゃ、俺のプランでいーい?」

プランなんてあるのか、すごい。

「うん、良いよ」

デート自体が初めての私は、分からないことばかりだから、原君に全てお任せすることにした。

それから、私たちはラウンド○ンでスポ○チャをしたり、ゲームセンターでゲームしたりした。

途中、原君が耐えられなくなって音ゲーに走っていっちゃって、それを眺めてたのも楽しかった。

手捌きがすごかったし、原君楽しそうだった。

薄暗くなってきた街中をあるきながら、思ってたより学生っぽくて、楽しかったなーと振り返る。

また来たいなー。

そこまで考えたところで、ハッとする。

これは、最後かもしれないんだと思い出すと、気分が下がって、頭も自然と俯いてしまっていた。

「ななしちゃん?疲れちゃった?」

原君は、立ち止まって私の顔を覗き込んでくれた。

「っ!だ、大丈夫!」

顔が思ったより近くにきて、不覚にもドキッとしてしまった。

「ホントに?」

「うん!」

にっこりと微笑んで頷いた。

「…嘘はいけないんだー」

「えっ?」

原君の言葉に耳を疑う。

嘘?

え、バレてる?

「ななしちゃん、嘘つくときに癖が出るんだよねー。それに、なんか最近元気なかったし。なんかあったの?」

癖とかあるのか。

よく見られてるんだなー、なんて感心してしまった。

けれど、何があったかなんて本人を前に言えるわけないし。

「…別に…大丈夫だよ…?」

私はもう一度、そう答えた。

「…ふーん?…俺さ、ななしちゃんのこと本気って言ったっしょ?だから、何でも聞きたいし、何でも知りたい。欲張りかもしんないけど。だからさ、ななしちゃんも、遠慮しないで何でも言ってよ?」

原君は、いつになく真剣な口振りで言った。

前髪に隠れて見えない目も、真剣な眼差しなのだろうか。

私のことでこんなに本気になってくれるのが嬉しい。

最初は、チャラいと思ってて、付き合うとかあり得ないと思っていたのに、いつの間にか、手放したくないと、手放されたくないと思うようになってしまった。

ジワリと滲んだ視界に、マズい、と思ったけど、もう遅かった。

「やっぱり大丈夫じゃねーじゃん」

ぼそりと呟いた原君の声は、怒っているようで、余計に視界を滲ませた。

それから無言で手を引かれて、どこかの公園らしきところに連れてこられた。

ずっと、無言だった。

どうしよう、呆れられた?

嫌われた?

そうだとしたら、嫌だ、悲しい、寂しい。

考えれば考える程、涙が溢れた。

いつの間にこんなに原君のことを好きになってしまっていたのだろう。

流れる涙は拭っても拭っても止まらない。

「あーもう、擦っちゃだめ!」

公園のベンチに座ると、そう言って原君は私の腕を掴んだ。

「っ…ずびっ、ひっく」

沈黙が辛い。

人気のない公園で、ただ私の涙を啜る声だけが聞こえた。

「ねー、話してくれる?」

原君は、尋ねながらも有無を言わせない威圧感があった。

隠し事したことを怒ってるのかな。

「言っても…怒らない?」

「内容によるかなー。善処はしてあげる」

私は、その言葉を信じて、ポツリポツリと、なるべく原君を攻めることのないように、角が立たないように、思っていたことを説明した。

原君と女の子がよく一緒にいるのを見て不安だったこと。

寂しかったこと。

嫉妬してたこと。

フられるんじゃないかと覚悟していたこと。

今日のデートが楽しかったこと。

私が原君のことをとっても好きになってること。

全てを話し終えると、ふぅ、と私は息を吐いた。

話している間に涙は止まっていた。

少しの間、沈黙が続く。

「…っ、あの、怒った…?」

不安と沈黙に耐えられず、私はそう尋ねた。

「…えーっと、話が飛びすぎてて纏まってないんだけど、取りあえずななしちゃんは俺のことが大好きってことで良いの?」

「うん」

「…そっか、そっか」

肯定すると、原君は噛みしめるようにそう言った。

かと思えば、グッと腕を引かれて、私は原君の腕の中にいた。

「っえ?は、原君!?」

「俺、女癖悪かったの自覚してるからさ、そんな風に思われても自業自得だって分かってる。でも、浮気なんか絶対してないから!俺ななしちゃんのこと本当に本気で好きだから!」

すごく、訴えかけるように言われた。

その言葉に、胸がすごく苦しくなる。

疑ったことがとても申し訳なくて仕方ない。

「ご、ごめんね…疑ったりして…」

必死な原君に、心がズキズキと痛んで、また涙が零れてきた。

「ううん、俺が悪いよ。ほったらかしにしちゃってたのも事実だし、ななしちゃんは悪くない」

原君は、私の頭を肩のあたりに抱き寄せて、頭をゆっくりと撫でてくれた。

それが、とても落ち着いて、私は原君にすり寄った。

今までの寂しさを埋めるように。

「っ…もー、可愛いことしてくれるじゃーん…」

「っ…だって…ずっと寂しかったから…」

素直にそう言うと、原君はまたギュッと私を抱き締めた。

「あー、あのさ、すっげーカッコ悪いんだけどさ、聞いてくんない?」

「何?」

「俺がなんでななしちゃん以外の女子に声掛けてたかって話」

原君は、そう言うと私をすっと離した。

そして、鞄をごそごそと漁る。

「はい、これ。誕生日おめでとう!」

目の前に出されたのは、綺麗なペンダントだった。

「わぁ、綺麗!可愛い!誕生日覚えててくれたんだ…!」

渡されたペンダントは水色と薄緑色の中間みたいな色のストーンが付いていて、沈みかけている夕日に照らしてきらきらと輝く様子は、夕焼けの海を思い起こさせて、幻想的で綺麗だ。

「女子に、何プレゼントされたら嬉しいか聞いて回ってたんだー。女心は他の男より分かってるつもりだけど、失敗したくなかったんだよねん」

照れくさそうに原君は頭を掻きながら言った。

「それで…、ありがとう原君。すごく嬉しい!」

緩む頬をほったらかして微笑むと、原君も笑ってくれた。

見えるのは口元だけだけど。

「あとね、その石クリソプレーズっていって、恋愛とか信頼とかって意味があるんだって。俺らにぴったりっしょ、見て?」

見てと言われたので原君に視線を向けると、同じ石の形の違うペンダントが胸元にあった。

「これ、ペアものなんだー。ほら、形合うでしょ?」

合わせてみると、ハート型になるというものだった。

こういうの、ベタだけど私すごく好きだなー。

「あとね、これはななしちゃんだから教えるけど…」

そこで言葉を切った原君。

手招きされたので近付くと耳元に原君が寄ってくる。

「この石、俺の目と同じ色してるんだー」

小さな声でそっと囁かれた言葉に私は驚いた。

原君はまるで悪戯が成功した子供みたいだ。

「ほら…ね?」

サラサラな前髪を上げて微笑む原君の瞳は、本当にこの石と同じ色で、とても綺麗だった。

「ホントだ…綺麗…」

思わず見とれて、ポツリとそう零していた。

「…良かった、引かれなくて」

「引くわけないよ!すごく綺麗!隠してるの勿体ない…」

そう言うと、原君はすごく嬉しそうに微笑んでくれた。

顔立ちもすごく整っていて、眩しい笑顔とその微笑みに頬が熱くなるのを感じる。

「俺、ななしちゃんのこと好きになって良かった」

原君はフワリと前髪を降ろしながら言った。

「わ、私も、原君のこと好きになって本当に良かった!」

感動と嬉しさでジワリと目頭が熱くなった。

2人でそう言いあった後、最後の夕日の光が見えなくなった瞬間、2人の唇がそっと重なった。



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