君の涙を欲する



 私は強欲である。例え欲しいと強く願っていたものが手に入ったとしても、それだけでは物足りないのだ。全てを私のものにして貪り食おうが足りなくて、どうしたらいいか分からない。何か解決策はあるのだろうか。

 君は私を友と思っていただろう。だが私はそうは思っていなかった。何度、君に応えてやろうと思ったか。だが無理だった。どう足掻いても私の中の君は友になり得ない。だって私は君を心から想い続けていたから。ずっとだ。きっと君と出会ってからずっと。

「叶わぬ恋とは、こういうのを指しているんだろうね……」

 君は私のものとなった。こうなったらもう君に逃げ道はないだろう。きっと私は永遠に君を独占し続けるのだ。でも、例え独占し続ける事が出来たとしても満たされない。何故だ、手に入れたのにこうにも胸の奥が渇いているのは。

「君は私のものなのにな。……何でこうも遠くに居るのだ」

 遠い。君との距離はどんどん離されていっているようだ。逃げないでほしい。私に捕らわれて、囚われて。

 風が吹く。北の地の冬はとても寒い。きっと君も寒がっているだろうな。私が暖めてやろう。

 鍵穴に鍵を突き入れて回す。鍵は掛かっていた。君はちゃんとここに居る。逃げようと思えばこの扉を開く事なんて容易い事だろう。だが開こうとしない。君はそういう人間だ。そんな君が私には愛しく感じる。少しは期待しても良いだろうかと自惚れる。

「ただいま」

 リビングの扉を開きそう言えば、君は顔を上げてか細い声で返答する。

「……お帰りなさい」

 暖房が入っているのにもかかわらず室内はひんやりとしていた。

 私が暖めてやろう。君がよく流す雫だって拭ってやる。だから少しでも良いから私に近寄ってくれ。君が遠くて、不安になるのだ。私を君の手で安心させて。

「今日はね、ケーキを買ってきたんだ。好きだって前に言っていたろう?」

 ケーキが入った箱を机に置く。中身は君が好きだと言った、とあるケーキ屋のモンブランだ。

「……ふっ」

 すると君はいきなり嗚咽を漏らし、身体を震わせた。何故だ。何故君は泣く。君は何を見ているのだ。何を見て、感じて、涙しているの。それは私が拭い去ってやれるものなのだろうか。

 そっと背に触れる。拒絶されない事を確認してから優しく抱き締めた。ふんわりと薫る私と同じ匂い。それに安心して息を吐く。

 君の泣き顔は見たくない。でも、きっと君は涙し続ける事だろう。だって君は望んでいないから。この場所を望んでいないのだから。でも私は手放す気などなく、この震える身体に腕を回す事はやめてやれない。

 頬を伝う雫に触れた。ゆっくりと輪郭をなぞりながら拭っていく。でも拭い去る事は出来ないだろう。だって私は君が何に涙しているのか分からないのだから、拭い去る事なんて出来ないのである。

「泣かないで、なんて言えた立場じゃないかもしれない。……でも君の涙を眼にすると苦しいのだよ。泣きやんでおくれ。」

 お願いだ。そんな面を眼にするのは耐えられない。君を滅茶苦茶にしてやりたくなるではないか。これではもっと君を泣かしてしまう。

 君は、微笑みながら流す涙を己の手で拭って、口元を少し歪ませながら笑みを深くした。

「貴男が、そう望むなら」

 この乾きの原因など知っている。理解しているよ。私は君の全てを、君の心を欲しているのだ。



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