言葉
「大好き」だととても足りなくて、「愛している」では重すぎる。この感情を言葉に乗せるとしたら、何がしっくりくるのだろうか。そんな事をたまに真剣に考えたりする。
自問して、でも自答は出来なくて。まるで砂地でダイヤモンドを探しているような錯覚に陥る。それ程にこの答えを見付けるのは難度が高いのだ。
思い付いたようにラブソングを聴く。「会いたい」や「会えない」、「大好き」や「愛している」。そんな在り来たりな言葉が陳列していて吐き気がする。でもたまに、良い詩もある訳で。こういう例え方もあるのだと学ばされる。
だからといってそれがしっくりくるという事ではない。近いのかもしれないが、致命的に何かが違っているのだ。人の言葉では駄目なのだと当たり前の事に気付かされる。
いつからだったかな。君に嘘を言うようになったのは。
「大好きだよ、愛してる」
厳密に言えば嘘ではないのだけれど。でも、何かが決定的にずれている言葉。
「会いたくてさ、でも会えない時もあるじゃん?もう、ほんと耐えらんない!……みないな?」
違和感を堪えて笑みを貼り付ける。陽気な僕を演じ、言葉を並べる。
「僕ったらどんだけ君を愛しちゃってんのよって、自分でも思っちゃう」
気持ち悪い。安売りしてはいけない言葉を易々と発している自分が。
「でもさあ、実際そうなんだよ。だから今日こうしていちゃつけるの、凄く嬉しいんだよね」
こんな言葉を信じてしまう彼女も気持ち悪い。でも、そんなの気にならなくなるくらいには好いているのだ。
「たまに不安になったりもするんだけど、結局は僕らって愛し合ってるんだなあって実感してさ、その不安も消えちゃったり」
ねえ、君は僕の事どう思っているの。僕みたいに感情に名前を付けられずに悶々としているのだろうか。それとも、「大好き」や「愛している」で片付けているの。実は僕なんて、「好き」に値する人間じゃなかったり、するの。
不安を消すために言葉を送る。愛し合っていると実感して不安が消えた事などないのだ。愛し合っていると実感した事さえ、ない。ただこの不安を消すために嘘を送る。
「僕ってば気持ち悪いくらい君が好きなんだよ。ねえ、こういうのって引いちゃったりしちゃう?大丈夫かな」
君の瞳を覗き込む。君の瞳には僕しか映っていなくて、でもそれは実際僕ではなくて。それは僕が作り出した理想の僕。いつでも笑っていて元気で、悩み事を話されたら真剣に解決策を考え出しちゃうような、そんな理想の僕で。
何でこうなったかというと、それは君のせいだ。断言出来る。だってこの理想の僕は君の理想でもあるから。これは君の望んだ僕なのだ。
「ぶっちゃけると、やっぱり気持ち悪い?」
大好き、愛している。やはりこれでは足りないし、重い。
でも、それでも。これではないと気付いていて尚、この言葉を君に贈る。
「そんなことないよ。私も、大好きだもん。愛しちゃってるもん」
華やかな笑みに可愛らしい声。冗談みたいな響きを感じさせる言葉だが、その瞳は本気だった。
「そっか。やべえ、安心しちゃった」
何がやばいのだ。何に安心したのだ。
僕は本当に君の事を好いているのだろうか。
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