重い言葉
彼女は僕の事を愛していると呟く。その声は耳に届いても奥深くには浸透しない。
彼女は何を思い、そんな重い言葉を紡いでいるんだろう。平気そうな顔をして、何故そんな事言える。聞いているこっちの方があまりの重さに押し潰されてしまうじゃないか。もしかして彼女はそれを望んで言っているの。僕を言葉で捉えて離さないで、なにをしたいのだ。
彼女が囁く。愛の言葉を淡々と。僕はどうも思っていないのに。
なんて、恥ずかしい事を考えたりする。僕の彼女は気持ち悪いくらいに僕の事を愛してくれているのだ。でもそれに応える事は難しい。
重すぎるのである。愛してくれるのは嬉しいけれでも、それに応えるには相当の覚悟と、それなりの勇気が要るのだ。僕はそのどちらも持っていない。2つ必要なのに、どちらも所有していない。出来ない。
何度言った事か。その気持ちにきちんと応える事は出来ないと。君は毎回苦い笑みを零しながら、良いの、と呟く。別に良いの、と零すのだ。
「貴方は私に嘘を言えばいいの。嘘の言葉で良いから、私を愛して?」
そう言うと苦い笑みは朗らかなものへと変わり、彼女はより一層美しくなる。その笑みを捉えると僕は嘘を付きたくなり、口が勝手に動くのだ。
「そんな事言われなくても、僕は君の事を愛しているのになあ。」
無駄に表情を作る事はしない。ただ、彼女の望む台詞を繰り出すだけだ。
「愛してるよ。きっとね、誰よりも君を想ってる」
そうすれば彼女は微笑む。その瞳に僕を映して、ただただ笑む。
そうして、何だかんだいって僕は彼女の事を幾らかは好いているんだろうな、なんて矛盾した事を考えるのだった。
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