遅い自己紹介

 吹いた風は一瞬で消えた。残るのは妙な浮遊感。風の音が間近で耳を過ぎていって、とてつもなく嫌な予感がした。

「さぁさ!目を開けていいよぉ」

 変態に促されたけど、頭の中で警報が鳴っていて「目を開くな!!」と俺に訴えている。ここはきっと、本能に従うべきだと思うけれど目を開けて周りがどうなっているか確認しなくてはいけない。
 突風が吹いたことで、部屋の中はきっとめちゃくちゃになっているはず。……ここが部屋の中ならば。

「ほらー、怖くないからねぇ。目を開けてごらん?」
「……っ」

 さっきまでとは違う優しい声音で耳元で囁かれて、つられるようにゆっくりと目を開けた。
 明るくなった視界いっぱいに映ったのは、澄んだ青空。一瞬惚けたようにその青を見つめたけど、次の瞬間には自分の位置に気付いて慌てる。

「……と、んでるっ!ちょ、何これっ!?」
「はは!うん。飛んでるねぇ」

 何がおかしいのかケラケラ笑っている。が、俺はそれどころじゃない。

 部屋ん中ではない事には気付いていたけど、まさかの空中。しかも物凄く下の方には緑が見える。アレは森か、森なのかなんでもいいけど……

「とりあえずこの状態なんとかしろぉお!!」

 何故にタオルケットで包まれて、変態さんは抱きついてるんでしょうか。どおりで声が間近で聞こえたわけだ。いや、先に気付けよって話なんだけど、脳が理解するのにかなり時間がかかったからで。

「ええ、んー、離したら少年まっ逆さまよ?」
「離さなくていいです。地面に降ろしてください!」
「まぁだ、ダメ!まずは状況を説明するからよく聞いといてねー」
「このまま!?」
「このままー。大丈夫、捨てたりしないからぁ。信用して?」

 どう信用しろと。突っ込みたかったが落とされても困るので、小さく頷く。それに気をよくしたのか、変態が頭を撫でてきた。

「まず自己紹介をしよっかー。俺の名前はレイ・バーツウェル。この世界では風の国の王子をしてるんだよー」

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