それぞれの胸中

 俺にとって、父もあの勇者に群れる部下もどうでもいい。昔から泣き虫で優しい友人を守れるなら、自分の立場が悪くなろうが知ったことではない。そう、思っていたけれど。

「さぁ、戻りましょう」
「……」

 責任を放り出すなと、あの子は言っていた。少しでも関わっているのなら責任があると。
 最善の策だと考えていた事以外にも、もしかしたら何か他に良い案があるかもしれない。あまりいいとは言えない頭ではあるけれど、巻き込んでしまった少年に顔向けができるようにやれるだけやってみよう。

「そんで、上手くいったら誉めて貰お」
「何か言いましたか?」
「いいや、何も」

 幼なじみも、その友人たちの為に。そして彼が動きやすいように、ついでにこいつらに対する嫌がらせも含めて色々やってやろう。
 頭のなかで計画を練りながらランベルーリが移動の魔法を発動するのを後ろで眺める。

 ――よろしくね、隼人くん。

 魔術師の性格を反映したような鈍い紫の光に包まれながら、彼がいるであろう馴染み深い城をその場から消える瞬間まで見つめた。


* * * * *



 目を開けると、見知らぬ場所に立っていた。いや、この世界は知らない場所ばかりだから知ってる場所のほうが少ないのは当然だ。だが、俺的にはこう、門の外に着くのかと思っていた。だけども、ここは、どう見ても室内だ。

「どういうこっちゃ」

 カーテンを閉めている為なのか、暗く部屋の中があまり見えない。まだ夕方のはずだが、早めに閉めたのだろうか。

「だ、れか……いるのか?」
「おわっ!?」

 ふいに、部屋の奥。薄暗くて何も見えない方向から声が聞こえた。不本意にも肩が飛び上がるほど驚いてしまう。

「だれ?……また、君なの?」
「え、あ、いや、俺は初めてここに来たんだけど」

 震えた男の声は、消え入りそうなくらいで耳を澄まさなければ聞こえないくらいだった。
 確かに向こうから見たら不審者極まりないのは確かだが、俺は初めて来たんだぞ。『また』と言われても困る。

「ん?……もしかして」

 ふと、ある事に思い当たった。俺が向かったのは魔王の城。今いるのは、暗くてわかりにくいが、カーテンから僅かに溢れる夕日の明るさでわかる広い部屋。そして、どう優しく考えてみても対人関係に慣れていなさそうな震えた声と何かに怯えているような気配。

「あー……もしかして、アンタ、『アル』さん?」
「……」
「……」

 応えが返ってきませんがどうしたらいいでしょうか。ちくしょう、恨むぞ変態チャラ男が。

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