嘘つき王子と歪な魔術師

Side:レイ

 彼の背が見えなくなると同時に、今まで何もなかった背後に気配。突然現れた相手に思い当たり溜息をつく。これからのことを思い頭が痛くなるが、ココを凌げば少年のことがバレる可能性は低くなる。
 動くことはせずにベンチに座って前を向いたまま、その気配が近づいてくるのを待った。

「……このような場所で何をしていらっしゃるのですか?」
「特に何も?ランベルーリ。君はあの子の側にいなくてもいいのかい?」

 少し離れた場所で歩みを止めた知り合いに、少年へと向けていたものとは別の、彼らへのいつもの笑みを向けた。そうすると、彼は決まって不機嫌そうに眉をひそませる。どうにもこの宮廷抱えである魔術師には出会った頃から嫌われているらしい。
 もしかしたら、だからこそあの子をこの世界に連れてきたのだろうか。自分への嫌がらせの為かと一瞬、頭の片隅に浮かぶがいや違うと否定した。ランベルーリは勇者であるカナデを事の他好いているのは見ていればわかる。

「王に命じられたのですよ。行方不明になった貴方を探すようにと」
「ふぅん。僕を探せなんて、何かあったのかな?」
「ええ。昨日、誰かが空間移動を行ったようです」
「確か君がカナデを連れてきた時に使用した魔法だったかな」
「そうです。私の魔法式を利用されたようで、どうやら他の世界からだれかが連れてこられたようです」

 犯人は俺だけど。心の中で舌を出して、それと同時に驚いた。父が自分を探すとは思わなかった。母が亡くなってから周囲に無関心になってしまった父は、連絡無しに隣国に1カ月滞在しても何も言わなかった。その父がなぜいまさらになって。
 まさか俺が別世界の人間を連れてきたことがわかったのか。ランベルーリも俺が行ったことに気付いているのか。
 けれど、魔術師の様子だけを見れば気付かれていないように感じる。

「さ、王子。無駄話をしている時間はありません。貴方にも捜索をさせよと厳命を受けています。早く城へ戻りましょう」
「何、僕も探さないといけないわけ?」
「ええ、貴方の弱い風の力でも無いよりはマシだと」

 そこかしこに散りばめられる針のような言葉に、少年といたことで消えていた自分の中の負の感情がゆらりと現れる。
 この魔術師は本当に、人の神経を逆なですることに躊躇が無い。カナデが来てから更に増したように思うのは、俺があの勇者を嫌っているからか。

「それから王子、一応の確認ですが……まさか、貴方では無いですよね?」
「……僕の力で出来ると?」
「そうですよね、貴方の力では精々が浮遊する程度のはず。いくら私に力を利用したとしても人をこの世界に導ける程では無い」

 紫の目が探るように細まるが、次いで蔑むように表情が歪んだ。不愉快なそれに、しかしいつもの事と気持ちを落ち着かせる。
 この魔術師にしろ、城にいる誰もが正統な継承権を持つ自分の力が弱いと嘲笑う。実際に自分の力は父よりも弱い。母がいた時はまだマシだったが、そのせいで蔑むような視線を向けられるのは、物心ついた頃から常のことだった。
 唯一、アルテルシオンの住人達だけは違ったけれど。

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