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「それで?」
「んー?」
「昔話と確認のためだけに、ココに連れてきたわけじゃないんだろ?」
「あははっ!せーかい」

 にこりと笑うレイには先程の気落ちさはない。少しだけ安心して促すように視線をやれば、レイはどこから取り出したのか青い石を差し出してきた。思わず受け取って、手の中に転がる青を見る。

「……これは?」
「うん。この石を持って……あの、柵の右側にこれと同じ石があるからそこにゆっくり行って」
「はぁ?」
「本当は城の近くまで連れていってあげたかったんだけど、どうやら気付かれたっぽいんだぁ」
「気付かれたって、お前は!?」

 変わらない笑顔と一緒に言われた言葉に、驚いてベンチから立ち上がろうとした。けれど、レイに腕を掴まれて立ち上がれずに終わる。
 引き止めた相手を睨んで文句を言おうとするけど、俺の腕をつかんだまま少し困ったように笑うレイに、口が自然に閉じた。

「ダメ。向こうはまだ俺が気付いたってことに気が付いてないんだぁ。だから、ね?」
「ね?じゃないだろ!……お前、どうするんだよ?」
「ん?普通に遊んで来ました、って帰るよぉ」

 大丈夫、なんて言葉が信じられるわけがない。聞いただけで周りの奴らが普通じゃないのかわかる。いくら王子だろうと、危ないに決まってるのに。そう思うのにレイの視線が、何も言うなと言外に訴えていて何も言えない。

「この石はねぇ、思い描いた場所に連れていってくれる石なんだ。念のために仕掛けておいてよかったよぉ」

 ひそりと小さな声と視線だけで俺を促す。だから、さっきの話をしたのか。俺が想像しやすいように、城を思い浮かべやすいように。

「……ハヤト君」
「っ!」
「行って。大丈夫だから」

 笑みを浮かべるのは俺の為か、見ている奴の為か。
 その表情に操られるように、先程とは違ってゆっくりと立ち上がる。自然に見えるように。
 そうすると、レイはもう一度大丈夫、と囁いて俺に触れていた手を離した。

「またね、」

 ひらりと振られた手に、頷くだけしかできなくて強く目を瞑ってから振り切るようにレイに背を向けて、石を握ったまま教えられた茂みに向かう。
 気付かれた、ってことはまだ居る場所までは見付かってないってことなのか?今、俺と二人で城まで移動すればどうにかなるんじゃないか、とか色々なことが頭を駆け回った。
 でもレイは俺に一人で行けって言う。多分、逃げるには遅いんだろう。

「……俺に、できることを、するだけ」

 そう、さっきアイツに言ったばかりだ。振り返らずに、茂みの中にあった石の傍に立つ。
 少し、別れるだけだ。元々は俺一人でいく場所なんだから予定通りのはず。

「……大丈夫」

 俺がどうこう考えても仕方ない。アイツが大丈夫って言ったら、大丈夫。
 深呼吸をして手のひらにある石を強く握れば、淡いヒカリが指の隙間から零れた。それに合わせて足元の石も瞬きはじめる。
 目を瞑って、レイが指差した先にあった城を頭の中に思い浮かべるだけ。

 ――そして、次の瞬間に体がふわりと浮いた。

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