アルルストの高台

 あれから俺とレイはジジさんに見送られながら店から出て、なんだかテンションの高いレイに引っ張られて高台にきていた。少し高い場所にあるそこからは、街全体が見渡せるようだ。
 賑やかな街から少しだけ離れた静かな場所には、ベンチが一つだけ設置されていた。ここに近づくにつれて口数の少なくなったレイの腕を引いて、ベンチに座る。

「ほら、あそこが今から行くところだよー」

 並んで座ると、レイが見て、と前へと指を差す。つられて視線をやると、どこかの遊園地に造られたファンタジー的な城がそびえ立っていた。
 思わず目を丸くすると、レイが「すごいでしょ」、と笑う。

「あれが、この国の中心。アメーリアン城だよ」

 石造りの城の周りには囲むように深い水路があって、外敵用に作られた水路は落ちたら当たり前だけど危ないらしい。

「一度ね、ふざけて魔法で水路の上に浮かんだんだけど落ちちゃったんだよねー」
「落ちた?」
「そう。あそこには魔法無効の魔法がかかってるんだぁ」
「……なるほど」
「うん、でね。落っこちた時にアルが一緒だったから無事だったんだけど……あれは危なかったなぁ」

 しみじみとした口調だけど、楽しそうに笑いながら語るレイに相づちを打つ。
 昔語りをするレイはいきいきとしていて、だからこそ現状を口にする時の苦々しい表情を思い出すと同情心が沸いてしまう。

「ねぇ、少年」
「……なんだよ」

 ふいに、楽しげな笑顔を消して神妙な少し疲れを含んだ表情が向けられた。
 変化に首を傾げると、レイの手が俺の頭を撫でる。なんとなく払い退けずらくてそのまま。

「俺ね、少年に言ってないことが山ほどある」
「……そうか」

 この雰囲気から言って、その山ほどは俺に関係があることだろう。でも今の俺にはどんなことなのかが、さっぱりとわからない。
 この世界の知識が足り無すぎる。基本的なことは教えてもらった気がするが、それでもココで育ったわけじゃないからズレや理解できていないことがたくさんあるだろう。
 それでも、帰るためにはやるしかない。

「安心しろ、何があっても俺は自分のやることをするだけだ」
「――そっか」

 肩をすくめてから言ってやると、どこか安心したようにレイが大きく息をついた。

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