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――なんだ今のは。空耳か。嫌に現実離れした空耳だな、おい。ないだろ。さすがにいくらなんでも。
「うわぁ、少年。そんなに嫌そうな顔しないでぇ?泣いちゃうよぉ?」
「どこをどうしたらそんなふうに見えるかは分かりませんが、違います」
「うん、無視は悲しいな」
ひどいよぉ、なんて情けない声を出すレイを無視して目の前の美形さんを見つめる。
「男同士でできてるも何もないでしょう。いきなり何を言い出すんですか。さっきの酸欠でおかしくなりましたか?」
「言っておくが、酸欠はお前のせいだからな」
誤解を解こうと思いついたままに言葉にすると、美形さんにやり返された。
「根にもつなんて大人げない」
「オイ」
「ジジ、大人げなぁい」
「ね?」「な?」とレイと顔を見合わせる。うん、タイミングが良い感じ。今までにこういう風に接する相手がいなかったから、結構楽しい。
「へぇへぇ。俺が悪かったよ。……ったく、最近のガキはよぉ」
「ジジ、自分もまだ若いでしょ?それに、俺は成人済みぃ」
俺達二人の様子を見て、どこか呆れたようにする美形さんにレイが余計なちゃちゃをいれた。
へぇ、成人済みだったのか。こっちでは何歳からかはわからないけれど、見た目は若いと思う。いやまさか童顔とか?違う世界だし、もしかしたら寿命すら違うかも。
「少年、ここでの成人も20歳からだよぉ」
内心で首を傾げていたのがわかったのか、美形さんに気付かれないように、こそりと耳元で教えてくれる。それに礼を言って、改めてレイと美形さんを眺めた。
さっきの話からして、レイよりは年上らしい美形さん。はて、この人はおいくつぐらい?
「ジジ、少年がジジの年を知りたいってー」
「ああ?あー、今年で72、だったか?」
「……72?」
その若々しい顔で72歳?いや、もしかしてウソかもしれない。いやでも……。
「ジジの本名はマルシェールなんだぁ。……なんでジジって呼んでると思う?」
「?……あ、あー。なるほど」
にこやかなレイの言葉に納得した。爺イコール、ジジなわけだ。なるほど、魔属って、すげぇ。
「俺の年はいいんだよ!それより……そんなもん使って、この後どうするつもりなんだ?一国の王子様にゃあ、いらねぇもんだろうよ?」
何かを誤魔化そうとするように話題を変えた美形さんに、そういえばそうだ。と気付く。俺はこの後、魔王の城に行くことになっている。その後、レイはどうするんだ?
気になってレイを見ると、変わらない笑顔で首を傾げた。