精神的問題はそれぞれ

side:レイ

 ベッドに座りながら風呂へと向かう彼を見送って、きちんと扉が閉められたのを確認する。こちらへ戻ってくる気配がないのを見てから、風の精に頼んで扉を向うから開けられないようにしてもらう。少し可哀想だけれども、見られるわけにはいかないから。開かなくなった理由は申し訳ないが宿のせいにさせてもらうことにする。
 そうして完全に彼がこの部屋に戻れないようにしてから、懐から掌サイズの青い物体を取りだした。
 この世界には無いが、彼の世界には普通に普及されている『携帯』というもの。これを利用して彼をこの世界に連れてきた。移転魔法の使えない俺では正確な魔法式を描くことはできないけど、魔術師の作った式を利用することはできる。だからこの携帯に術をかけて自ら選ぶように差し向けた。
 彼には本当に悪いとは思うけれど、俺にはもうこの方法しか残っていなかったから。

「ごめんねぇ。運が悪かったと思って、諦めて?」

 シャワーから戻った時に一瞬だけ見えた表情に、少しだけ戻してあげたいと思ったけど、もう俺の力ではあちらの世界に戻してはあげられない。この世界に呼ぶ際、大量の力を使ってしまったし、何より戻す術式を知らない。知っているとすれば、城に使える魔術師たちだけだ。だから、アル達の所に行くのが正解。
 あそこには上位の魔術師がいる。アル、または勇者をどうにか出来たら、きっともとの世界に戻してくれるはず。
 一か八かのもしかしたら帰れないかもしれないという、とても卑怯なやり方だから、彼には許せとは言わないしむしろ戻れない場合は殴って貰っても良い。殴らないほうがおかしい。

「痛いのは好きじゃないけど、本当の意味で傷を負ってしまうのは……きっと彼のほうだし。連れてきた本人が責任を取らないと」

 ごめんね。俺は自分の国を守りたい。なりたくてなったわけじゃないけど、一応王子だし、国民を第一に考えないといけないんだ。

「でも、もし戦争が始まってしまったら……、俺はきっと」

 自虐的な笑みを浮かべているのは自分でもわかっている。でも、俺は『俺』でしかありえないから。王子とはいえ、能力の値が低い俺には、このくらいのことしかできない。
 ごめんね、と小さく呟く。それが誰に向けてなのか何に対してなのか自分でもわからない。でも無性に、とても馬鹿らしい争いに巻き込んでしまった彼の声を聞きたくなった。

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