城下町『アルルスト』

 首を傾げたレイに横に首を振った。
 とりあえず、一目惚れされた魔王の精神的な面を強化、または勇者へのいなし方を身につけさせればいいわけだろ?思ってたより簡単じゃないか。魔王様は常識人みたいだし、ある程度教えれば早めに帰れるかも。

「言っておくけど、アルは重度の恥ずかしがり屋さんな上に、年期の入った引きこもりだからねぇ?まずは引きずり出さなきゃ。勇者ん時も側近が引きずってきたしぃ」
「面倒な」
「ははっ!頑張ってねぇ。俺も出来るだけ協力はするしぃ」

 でも城には入れないって言ってたじゃないか。
 握らされたネックレスを見てから疑いの目でレイを見るとにや、と笑った。

「だから、出来るだけって言ってるでしょー?」
「つまりは、基本的には傍観でいるって事か」
「そゆこと。頑張ってぇ」

 こ、いつは……。
 へらっと笑ったレイに、久しぶりに誰かを全力で殴りたいと思ったのは仕方ないと思うんだ。

「まぁ、なんとかなるよ……って、ほらぁ喋ってる間についたよぉ」

 宥めるように微妙な慰めの言葉を言ったレイは、歩く先を指差した。つられてそちらの方を見ると、いかにもな門と両脇に立った門番らしき人がいる。

「あれはね、アルテルシオンへの入り口。城下町へ続くんだよ」
「城下町?」
「うん、城下町『アルルスト』。そこまで行ったら宿に入ろうかぁ。お勉強の続きはそこでやろぉ」
「すぐに行かなくていいのか?」
「説明してから城に入らないと、変な人を見る目で見られるよぉ」
「……」

 行き先決定。休めて説明が聞ける宿だ。


* * * * *



 首尾良く門から入った俺達は、レイのお薦めで決めた宿にいた。少し狭いけど、ベッドは二つあって風呂に洗面台、小さいテーブルと椅子もある。
 俺はベッドに座って太陽も落ちた窓の外を眺めていた。レイはシャワーを浴びにいっていて、部屋の中は静かだ。
 何も聞こえない部屋の中にいると、ふつふつと今まで頭を過らなかった考えが出てくる。
 レイが隣にいる時はそう考えなかったけど、結構この状況は俺やばくね?魔王とか勇者とか。まず違う世界に来たとか、まるで漫画やゲームの中の話だ。

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