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うわぁ、と思わず顔を歪めてしまう。
愛憎劇はフィクションだからこそ楽しいのであって、現実でそんなことになったら楽しくない。むしろ面倒だ。
「だからね、うまぁく追い払えるようにしたいんだよね。できればアルを諦めてくれるよう、勇者のほうもお願いしたいんだけど……下手したら、少年も恨まれる側になりそうだからねぇ」
「勇者の信望者に?」
「そー。だから、アルをどうにかしてへたれなくさせて欲しいんだよぉ」
「……俺に嫌って言える権利は?」
「えへっ」
「……わかりました」
にっこり可愛らしく笑ったレイに、強制的に与えられた任務をこなさないと帰られないと判明。
渋々と了承すると、レイはにこやかに笑い「じゃあー」と言葉を続けた。
「もう少し詳しい話は、下に降りてからにしよっか。掴まっててね」
「……浮きながらの会話は意味あったんですかね?」
ゆっくりと下降をはじめたレイの肩にしがみつきながら首を傾げる。すると、レイはううんと唸った。
「あえて言うなら、状況判断を鈍らせるためだったんだけどねー。あんま意味なかったっぽいし」
「?」
「怖がってるというよりは、驚いてるだけだったしぃ」
ふわりと地面に降り立つ。まわりは草原で人が全然見当たらない場所だった。
レイから体を離すと、巻いていたタオルケットを頭から被せられた。
「俺と一緒にいると目立つからぁ、あんま顔見られないようにしないとねぇ」
「王子様だから?」
「そ。王子だからねぇ。妬まれやすいの。だから、顔見られる前にアルテルシオンに行かないと」
頭から被って見ずらくなったレイを見上げると、哀しそうな悔しそうななんとも言えない表情をしていた。
今までに、何か色々あったんだろうな……。
「特に貴族の馬鹿とか、自分の娘がダメだったから息子をけしかけたりとかしてさぁ。そんで慌てて追い返せば色んなとこから睨まれるしぃ。どうしろと。俺には男色の気なんかないってーのぉ」
「……それはまた何というか」