とある男子高校生の一日

「昼は約束があったんだ」

 どうしようか。先約があることを伝えないと。そう考えて、そろそろホームルームが始まる事に気が付く。後でメールしよう。勝手に約束を投げつけきたやつはメールで十分だ。何よりわざわざ三年のクラスに行くのも面倒だし。
 そうしよう、そう決めた。誰もいない廊下で誰にともなく呟いて、教室へと向かった。


 二時限目が始まる間際、メールの受信通知が入った。亮賢からの返信だ。一時限目がはじまる前に送っているから、亮賢にしては遅い返信だな。
 不思議に思いながらメールを開くと『ちょっともダメ?』と来ていた。『ちょっとも無理』と返してすぐに担当教師が教室に入ってきた。慌てて携帯を机の中に隠す。この担当教科の先生は厳しいから、授業中に使ってるところを見つかるとすぐに没収されてしまう。しかも、没収後に反省文を10枚書かないといけないらしい。
 反省文なんてそんなもの、書いてたまるか。

 そうして、亮賢からのメールをすっかりと忘れて授業を受けた。気が付けば昼休み。ポケットに入れていた千円札を手に、隣の席で何やら製作中のルシアに声をかける。

「購買で買って来る」
「ん、ここで待ってる。後、コーヒー牛乳」
「後で百円な」

 ルシアが頷いたのを確認してから教室を出て、階下に向かう。購買は一階にあるから、教室がある三階に戻るのは少し難儀だ。しかし仕方ない。昼飯を食べなければ、午後の授業が辛くなるのはわかりきっている。成長途中の男子高校生の食欲を舐めるな。
 無事に購買でパンを買うと、中庭にある自販機でコーヒー牛乳と野菜ジュースを買う。ブレザーのポケットに飲み物を入れると腰の辺りがひんやりとした。

「教室に戻るか」
「少し寄り道をするか」
































「教室に戻るか」

 目的のものは手に入れたし、ルシアも教室で待っている。相談したいことがあるって言ってたし、とっとと戻ってやろう。
 そう考えて教室へと若干はや歩きで帰った。別に頼られたのが嬉しいからってわけじゃない。ルシアの相談、と言うのはある程度予想がついている。
 簡単だ、あいつに関してはすべてオカルト関係で考えればいい。そうすると、考えられるのはどこかしらを調べたいから一緒に来てほしいとかそんな感じに決まっている。

「七不思議を調べたいから、放課後付き合ってくれ」
「予想どおり」

 教室に戻り、コーヒー牛乳を渡してすぐ、さあ食べようかと大口を開けた瞬間に言われた。空気を読めと言いたかったがとりあえず予想が当たったことに喜べばいいのか何なのか。
 俺の嘆きに、何の話だと首を傾げるルシアになんでもないと先を促す。どうせ断っても何が何でも行かせようとするだろう。それだったらさっさと聞いてとっとと行った方が早いし何より俺の精神的ダメージも少ないはずだ。

「この学校には六つの不思議がある。知ってるか?」
「ええーと……『誰もいない図書室で女子生徒の泣く声がする』『体育館で弾むバスケットボール』『音楽室に飾られてる音楽家の肖像の目が動く』『特別棟の渡り廊下に白い何かが歩いてる』『生物室のホリマリン漬けの標本が動く』『3階のトイレで人が消える』だったか?」
「ああ、その六つだ。さすが野々村、よく知ってるな」
「……前にルシアが教えてくれただろ」
「そうだったか?」

 きょとりとするルシアに、ああ本当に忘れていたんだと肩を落とす。そうだった、お前はそういう奴だよな。

「それで、野々村はどこからがいい?」
「え?あー……」

 そうして放課後、ルシアに連れられてトイレやら体育館をすべて回ったが特に何もなかった。それでもルシアは楽しかったらしく、ルシアのノートにはドイツ語と一緒に俺とルシアが二人で写った写真が貼られていた。

End5:写真に写った二人





























「少し寄り道をするか」

 少しくらい待たせてもいいだろう。うん。そう一人納得して販売機前のベンチに座った。秋に入ったばかりとは言え、空気が冷たくてすぐに身体が冷える。パンと一緒に買ったポッキーをあけると細長いそれをくわえる。パキパキと軽い音をたてながら食べていると、ふいに足元の影が二人分に膨らんだ。

「先輩、ここで何してるんですか?」
「うおっ!?」

 首元に回された腕に咄嗟に搬送が出来ず、驚きに声をあげる。ひょいと横から覗きこまれてようやく相手に思い至り溜息をついた。

「……ポチ」
「楓です」

 即座に返された反応に満足しながら、首に絡んだ腕を解く。力がそれほど入っていなかったからか簡単に緩んだ。横にずれてもう一人座れるようにするとそこを叩く。部活の後輩はにこりと笑うとそこにするりと座った。

「ほらよ」
「ありがとうございます!」

 ポッキーの袋を楓へ向けるとそこから一本が引き抜かれる。ぽりぽりと小動物が食べるように小刻みに消えていくそれを眺めつつ、「眺めてるって変態っぽいな」と内心で呟いた。

「そんで、お前はここで何してんだ?」
「先生に呼び出しを受けて怒られてました」
「……何やったんだ?」
「一週間前の部活の時に、僕のロッカーに手紙が入ってたじゃないですか」
「ああ、不幸の手紙」

 にこにこと笑う後輩に頷く。確か一週間前の放課後、部室ロッカーに手紙を入れられていたことを思い出した。確か不幸の手紙のような文面が書いてあったような気がする。この手紙を見た人は〜的な。

「はい。入れた相手を特定したので、少しだけ仕返しをしたんです」
「……仕返ししたのか」
「はい。結構簡単に見つかりました」

 浮かぶ笑顔がまだ幼い容姿に似合って可愛いが言ってることが怖い。とりあえず先を促しながらもう一度ポッキーを渡す。貢物を渡している気分になるのは何でだろう。

「それで、何したんだ?」
「あの手紙を大量コピーして封筒に入れて贈りました」
「……ん?」
「そしたら自分の事を棚に上げて先生に泣きついたみたいです。あ、でも字がそのままその人のものだったんで紙を無駄使いするなって言われただけでした」
「……そうか」

 良かったな、と言っていいのかどうなのか。先生もきっと何を言っていいかわからなかっただろう。手紙を出した本人は自業自得だと思うが。楓が見た目に反してアグレッシブだという事を知らなかったのだろうか。

「先輩はここで何してたんですか?」
「ん?寄り道」
「寄り道ですか」
「そろそろ戻るけどな」
「あ、一緒に行きます!」

 ベンチから腰を上げると、隣に座っていた楓も一緒に立ちあがった。子犬がまとわりつくように周りをうろつきながら、何故かきらきらとした目で俺を見上げてくる。俺の懐かれ具合半端ない。自画自賛してみた。いや、俺はショタコンじゃないぞ。
 心の中で何かと戦いながら教室へと着いた俺は、待ちくたびれたらしいルシアにコーヒー牛乳を奢らされてしまった。
 楓が自分が声をかけたから、とすまなさそうに謝っていたけど寄り道した俺が悪い。少しとはいえ、軽くなった財布に少しだけ寒くなった。

End4:寄り道の結果

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