とある男子高校生の一日

「昼は委員会だった」

 しまった、忘れていた。まあ後でメールしておけばいいか。とっくに見えなくなっていた亮賢が消えた方を見て、小さく息をつくと教室へと向かった。
 教室に着くと、隣の席の奴が「おはよう」と小さい声で呟いた。つられて声を潜めて挨拶を返す。
 それに満足したように笑うと、隣の席のソイツは机の中からノートを取り出して何かを書き留め始めた。普段から持ち歩いているそのノートには、その日あったことが書いてあったり押し花などが貼られていたりする。以前に見せてもらった時はどこかの産地土産のシールを所狭しと並べて貼っていた。
 こいつのことは、いまいちわからない。いいやつではあると思う。だけど、いわゆる不思議ちゃんなのか、ハーフだからなのか時折突飛なことをする。面白いからいいけど、時々ついていけない。さすがに宇宙人捕獲大作戦なんてやりたくない。キャトルなんとかをされたらどうするんだ。

「野々村、委員会は今日の昼か?」
「ん。保険委員でトイレ回んないといけないんだよ」
「そうか、残念だ」
「何か用でもあったか?」
「用と言うほどではない。これを貰ったからやってみないかと思ってな」
「……今すぐ捨てたほうがいいに二百ペリカ」

 ノートの最後のページに挟まれていた紙を見て、思わずゴミ箱を指差す。
 A4サイズのその紙には五十音と『はい』と『いいえ』、それから真ん中にどう見ても鳥居にしか見えないものが書き込まれていた。どう見てもこっくりさんですありがとうございます。
 俺の反応に不思議そうにルシアが首を傾げる。おい、誰だコイツにこの紙を渡したやつは。

「捨てるのは勿体ないだろう」
「その勿体ない精神を捨てればいいと思うよ」

 そんなにか、とまじまじと自分が持っている紙を見つめるルシアを放っておいて、亮賢へ昼は無理だとメールをする。
 数秒で顔文字だけが帰ってきた。ちなみに『(´・д・`)』という文字なわけだが、ショックを表してるのか?とりあえず『(°∀°)』とだけ返した。


 昼休みに入ったわけだが、それまでの間に無駄に亮賢とメールをしていた。『(`□´)』ときて『(´Д`)』と返し、『(´・ω・`)』ときたから『(´ω`)』と返していたら、気がつけば携帯の文字履歴が顔文字だらけになった。なんでこんなアホみたいなやりとりをしてるんだろう。
 昼休みに入って亮賢から『(。・_・。)ノ』と来たのを最後に、俺からは返していない。今からトイレ回りをしてトイレットペーパー等の確認をしないといけないからだ。放課後でもいいじゃないか。

「存分に紙を取り替えて来い」
「……おう」

 いまいちよくわからないルシアに見送られ、購買に寄って昼飯を買ってから保健室へと向かう。補充用のトイレットペーパーを貰わないとはじまらないからだ。

「野々村君、これが君の分ですね」
「ありがとーございます。先生、昼飯ここに置いていっていい?」
「ええ、どうぞ」

 にこりと笑う緑葉先生は「そこに置いておいてください」と言って、テーブルを指差した。遠慮無く置かせてもらうと、ビニールいっぱいに入ったトイレットペーパーを手にしてトイレへと向かう。

一階のトイレ
二階のトイレ
三階のトイレ



































 俺の担当は一階のトイレだ。保健室から出て下駄箱のほうへ向かえば、その途中に目的のトイレがある。
 早く終わらせて昼飯を食べよう。急いで棚に置かれているトイレットペーパーの在庫とそれぞれの個室を確認して、もう少しで切れそうだった場所には持ってきたトイレットペーパーを置いた。

「よし、次行こう」

 もうひとつ、このトイレとは反対側にあるトイレも、同じように確認し終えると報告と余ったトイレットペーパーを返却しに保健室へと戻る。保健室では緑葉先生が他の委員たちにお茶を淹れてくれていた。俺もそのお茶を貰うと、購買で買ったパンを食べて教室に急いで帰った。
 戻った先。ルシアが他のクラスメイトと一緒にこっくりさんをやっていたのを、思わず知らぬ振りをした俺は悪くない。

End1:委員会から戻ったら





































 俺の担当は二階のトイレだ。確か二階には三年のクラスがあるから、亮賢のとこを覗いていってみようか。
 そう決めると、二階へと向かった。二階へ階段を登ると、すぐ目の前に四クラスが並んでいる。確か、亮賢は三組だったはずだ。廊下を奥へと歩いて行くと、見覚えのある先輩がいた。

「あ、青木先輩だ」
「……お前か」

 俺に気が付いた先輩は、俺の隣と後ろを見る仕草をした。それから少し首を傾げる。そうすると黒い髪が揺れて、首に貼られた青い花が見えた。

「なんですか?」
「亮賢はどうした?」
「知らないです」
「そうか、俺も探している」

 お互いに話しが噛み合っていない。そう気が付いて、無言で見上げているとぽすりと頭を撫でられた。髪を撫でて、耳に掛けられると、ふと先輩の視線が上がった。

「亮賢、睨むな」
「睨んでねーし」

 横から聞こえたぶっきらぼうな低い声音に、視線だけを動かしてみると亮賢がピンクのコンタクトを入れた目で青木先輩を睨んでいた。意味がわからずぼけっとしていると、未だに俺に触れたままだった先輩の手を亮賢が虫でも払うように鋭く払った。

「そーいちくん、しょーちゃんはダメ。怒るよ」
「男の嫉妬はみっともないという言葉を知ってるか?」
「え、何の話……」
「しょーちゃんは少し黙ってて。これは男の戦い」
「俺の性別は女だったのか」
「亮賢、通じてないぞ」
「そこがしょーちゃんの良い所」
「褒められた!」
「褒めてないと思うが……」

 噛み合ってるのかいないのか、よくわからない状況ながら俺は頑張ってると思う。特に不機嫌丸出しの亮賢に対して、もう少し大人になれといいたい。何で不機嫌なのかは知らないけど。
 しばらく先輩を睨んでいた亮賢だったけど、表情の変わらない青木先輩に馬鹿馬鹿しくなったのか、深くため息をついてから俺を見下ろした。

「そんで、なんでトイレットペーパー持ってここにいるの?」
「委員会の途中。二階のトイレは俺が担当」
「亮賢を探していたんじゃないのか?」
「俺に何か用だったの?」
「ここに来たついでで探してただけ」
「ついで……」

 しくしくと泣きまねをする幼馴染を放置して、近くにある教室から時計を見るとそろそろ仕事をしないと昼飯を食べないで次の授業を受けないといけない時間だ。亮賢にトイレットペーパーの入った袋を押し付けると、その腕を引っ張る。

「時間がないから手伝って」
「え、俺今から昼飯……」
「手伝ってくれたら一緒にご飯が食べられるよ!やったね!」
「なにそれ絶望しかなさそうな台詞はやめろください」
「青木先輩、亮賢借りますね」
「一時間、ポッキー一本で手を打とう」
「俺の価値はポッキーなの!?」
「三十分くらいなんでポッキーの半分、後で渡します」
「商談成立だ」
「無視は止めて」

 先輩とガシリと握手をすると亮賢が背中からおぶさってきた。ぐらっと前のめりになったが、なんとか踏ん張って倒れなかった。不意打ちにいらっときたので脇腹に肘鉄をいれといた。苦しそうなうめき声が聞こえてきたけど知らない。
 それから亮賢に手伝ってもらって、委員会の仕事は何とか終わることができた。昼飯も時間内に食べ終えたのは奇跡としか言いようがない。
 ポッキーについては後日、きちんと先輩に渡したから大丈夫。買ったのは亮賢だったけど。

End2:ポッキーの価値



































 俺の担当は三階のトイレだ。三階には一年生と二年生のクラスがある。つまりは一旦戻らなくてはいけねいということだ。さすがにこの年になると、三階までの往復は体力的にきつい。一年が担当になればいいのにとか思わなくもないが、クジ引きだから仕方が無い。
 そんなわけで来た道を戻る。三階に着いてまず最初に一番近いトイレに入った。トイレットペーパーと取り替え、棚に補充していると、さっき別れたばかりのルシアに会った。

「何してんだ?」
「ノック」
「見ればわかる。どう見ても誰も入ってないだろ。なんで?」
「花子さん」

 嬉々とした表情のクラスメイトに、「そうか」と一つ頷いて他人のフリをしてそこから出た。誰だ、こいつに花子さんを教えた奴は。
 気を取り直して、次のトイレに向かう。このトイレは一年の教室から近い場所で、一年がよく利用する場所だ。中に入ると、珍しくも誰もいない。少し考えてから三番目のトイレに近づく。ちょっとした好奇心だ。きっと人がいないのも、神様が「さぁ、いまだ!」とか言っているに違いない。
 コンコンコン。三回、ノックをする。

「……返事が無い。まるで以下略」

 まぁ、あんなのただの子供だましの噂だしな。分かり切っていた結果に肩を落として、トイレットペーパーの有無を確認する。丁度、後一回分くらいのようだ。
 取り替えてしまおうと、個室の中に入る。誰もいないトイレの中はなんとも不気味だ。花子さんなんてやってるんじゃなかった。後悔しつつ、取り替えを終えると、閉めていたドアを開けようとしてドアを押す。軽く開いたドアに少しの解放感を味わいながら閉めようとドアの方を向いた時。

「遊びましょう?」

 そう、聞き覚えのある低い声が耳元で聞こえて。

End3:トイレの○○

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