差し出された手

 ぱら、と部屋の中に聞こえるのは本をめくる音。
 蝋燭を一本灯しただけの部屋は薄暗く、あまり快適ではない状態。だけど僕はその中、食らい付くように文字を追う。

「ヨウ!あいかわらず本の虫かー?」

 集中していた中、ばたん!と騒々しい音が乱入してきた。
 開いたドアのほうを見ると、青い髪に少しのメッシュをいれたチャラい美形。思わず出たため息は仕方ないと思うんだ。

「陰気くさー!」
「うるせぇですよ。何の用ですか。今すぐ回れ右で帰りやがれ」
「うーん。見た目と口の悪さのギャップがいいねぇ」

 コイツは僕が罵るたびに体を震わせて喜ぶ。変態が。口にすると余計に喜ぶから言わないけど、なんというか……変態だ。

「あ、そんな目で見ないで。興奮しちゃう」
「キモいです」

 即答すると、きゃっと喜色の含んだ声で叫ばれそのまま抱きつかれた。どうしよう、いつものことだけどこの人手におえない。
 段々と泣きたくなってきた。

「あ、そだそだ。ヨウ、ボスが呼んでたんだ。5分以内に来いって」
「それを先に言え」

 ふと思い出したように手を打ったカーティスに、本を閉じてそれで軽く頭を叩く。
 ごめんねぇ、と謝られたけどとっくに指定された5分は過ぎている。怒られはしないだろうけど、きっとにやにやした表情で楽しそうに虐めてくるんだ。どうしてくれよう。

「……はぁ」

 腹をくくって行くしかない。怒られたらカーティスを盾にすればいいし。

「よし、カーティス行くぞ」
「え、俺行かない」
「お前に拒否権はねぇよ」

 嫌がるカーティスの襟首を掴んで立ち上がる。
 面倒だ。面倒だけど、身元不明な僕を拾ってくれた相手を無碍にするわけにはいかない。

「さぁて、僕に何の用ですかねぇ……」

 カーティスを引っ張りながら部屋から出て、廊下を歩く。めざすは彼の部屋。
 思い出すのは、彼の人を表すに相応しい赤と黒の色。


『こんなとこでガキが何やってんだ?』

『……あんたには関係ない。見んな。ヤンキーが』

『ヤンキー?……ハッ、なんだオマエ』

『なんだは僕のセリフだし。いきなり笑いだして……いかれたか』

『顔は可愛いのになぁ。口の悪いガキだ』

 面白いと笑いながら僕の頭を撫でた手は、思いのほか温かかった。


end

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