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まわりを確認してから、貰ったカードキーを使って部屋の鍵を開ける。素早く中に入って鍵をかけた。
この部屋には、本人のカードと俺が持ってるこのキーでしか入れないようになっている。
――以前、転校生が無理矢理入って来ようと、理事長から貰ったらしきどこでも開けるカードキーを使っても開かなかったくらいだ。
その後、逆切れして理事長にあたり散らしたらしい。コレは秘書さんに苦労話として聞いたから、本当の話。変な雇い主を持つと大変だ。
「……崎会長?」
ぼんやりと考えながら部屋の持ち主である会長を探す。見慣れた、これが高校生の寮部屋?と、首を傾げたくなる内装のリビングや寝室を開けるけどいない。
おかしいな、確かに『後で来い』って言ってたはずなんだけど……?
「ベランダかなぁ……?」
引かれたカーテンを開くと、手摺りに肘をついた後ろ姿。窓を開けると微かにタバコの臭いがした。
「会長」
「……少し待て」
近付こうとすると、会長が振り返って待てと手をあげた。頷いて窓枠に寄りかかりながら待つ。
その間に会長は手に持っていたタバコを携帯灰皿で消して、手摺りに寄りかかった。
「……会長」
「お前がコレを嫌いなのはわかってる。悪い」
苦笑を浮かべてコレ、と消したタバコを示す会長に、首を横に振る。確かにタバコの臭いは好きじゃない。でも、長く禁煙していた会長がそれを吸いたくなるほど、疲れてるのを知ってるから。
「……チッ。喧嘩してる時は特別気にならなかったが、日常であのテンションと勘違いには頭くるな」
「会長……、はぁ。総長は、初めてあった時から気にいられてたけどねぇ。まさか気付いてなかったとは思わなかったよー?」
そう。俺たち生徒会が夜の町に繰り出して暴れてる中で、出会った子供は信じられない程に自己愛が強く手に負えない程に勘違いが激しかった。
それなのに、なぜか副会長や書記達は彼に惹かれてしまった。理解できない。
「はっ、知るか。俺にはお前がいれば十分なんだよ」
「……わぁ、なんかこー……総長、恥ずかしいねー」
「うるせぇ。……それより、お前はいつまで名前で呼ばないつもりなんだ?」
「え、名前で呼んでほしかったのー?」
初耳だ。驚いていると苦々しそうに無駄に整った顔を歪め、手招きしてきた。臭いも薄れてきたから、ベランダに降りて会長に近づくとそのままぎゅ、と抱き締められた。
「悪いかよ」
「……悪くない、かなー?」
拗ねた声に笑いながら会長の肩に顔を埋めると香水の香と一緒に、タバコの苦そうな匂いが鼻を掠める。
背中に腕を回して擦り寄ると「静香」と、低く甘い声で呼ばれた。ドキドキと胸が高鳴る。きゅうんと、ときめいてしまった。
「……うぅー、ずるい」
「くくっ、ほら呼べ」
「……り、隆司……って、ふぁっ!」
会長の名前を呼ぶと、むぎゅうと抱き締められる。ぽかんとしていると、頭を撫でられた。
「……」
「……」
無言で寄り添いながら、互いに力を抜く。さすがに疲れた。ここ毎日ずっと、生徒会の仕事仕事仕事。会長は俺以上に仕事があるのに、副会長達の分まで処理している。
「静香」
「……なぁにー?」
「もう少しだ」
「……えー?」
会長の言葉の意味がわからなくて首を傾げたけど、笑うだけで教えてくれなかった。
……会長が楽しそうだから、いっかぁ。
――そして気付けば副会長達や転校生が、会長を見るたびに逃げ出すようになっていた。
(どうしたんだろぉ?)(……さぁな)
end