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腰が抜けたままアホ面を晒す俺を見てどう思ったのか、表情を変えることなく呟くとこっちに向かって歩いてきた。
「オイ、聞いてんのか?」
目の前で見下ろすように立ち止まる。それを見上げた俺は、ようやくその顔を思い出した。
――この辺りの地域で最強と呼ばれる、『紅蓮』。それが目の前にいる不良の通名。
「っ、て、ち、血ぃーっ!!」
「……ち?」
危ないと有名な不良に逃げ腰になったけど、近づいてきてわかったのは相手の正体だけでなく。額から流れる血、にも気が付いた。離れている時は、その赤い眼光に視線がいってしまい気が付かなかった。
「ば、絆創膏!その前に消毒?あれ、額は頭だから病院か!?」
「……落ち着け」
「いやいやいや!頭から血ぃ流してる人いたら落ち着けないからっ!えぇと、この辺りで一番近い病院行きますよ!!」
怪我をしている本人は慣れているのか落ち着いていたが、日頃から生傷を見慣れていない俺には喧嘩してる不良以上にショックを与えるものだったらしく。恐れ多くも不良さんの腕を掴んで病院へと駆け込んでしまった。
「……しみる」
「消毒してるんだから当たり前です!」
そんなノリで、結局手当てが終わるまで付き添ってた俺はなんてバカ。
そしてその日から。いつもの平凡な毎日が崩れ去って、気付けば隣に最強の謡う不良さんがいるようになるなんて。思いもしないことだった。
end