偶然は始まりの一歩

「ふぁあ」

 ぼんやりと町中を歩きながら大きく欠伸をする。女子じゃあるまいし、手で隠そうなんざ思わない。
 今日は日差しが良くて、あったかい。眠気が襲ってきたふらふらな足取りで、帰路をゆったりのんびりと歩く。とりあえず言うなら、「眠い」の一言だろう。
 そんな風にいつも通りに歩いていた。そうやって知った道を進んでいたんだけど。

 
 −−っ!
 −−!−−がれっ!!

「……?何だ?」

 脇道の奥から聞こえた物騒な怒鳴り声と、何かがぶつかる鈍い音。どう聞いても普通じゃないというか、日常では聞かないような。

「……」

 好奇心に負けて、電柱に手をついてゆっくりと奥のほうを伺う。気付かれないように、そっと。

「……え?」

 覗いた瞬間、黒い何かが、勢い良く飛んできた。避ける間もなく俺とソレは激突して、おもいっきり背中と腰を打ち、痛みに呻く。

「っ……〜、いたた」

 上に乗っかったものを反射的に退かすと、呻き声がしたような気がした。

「うわあっ!」

 横を見ると青ざめた顔のいかつい不良さん。
 驚いて逃げようとしたけど、腰を抜かしてしまったらしく動けない。

(どうしよう、どうしよう……!)

 頭の中はパニックになり、一つの単語だけが巡った。
 ――ふいに、先ほどまであんなに騒いでいた声が無くなりしん、と静かになっていることに気付いた。激しく鼓動する心臓を宥めながら、この不良さんが吹っ飛んできた方向を見る。

「ひっ!」

 折り重なる人、人、人。皆、不良ばかり。そこに、一人だけ立っている人がいて……。
 

「なんだ、お前」
「え、あ……」

 カラコンか、赤い色をしたその人の視線の強さに上手く口が動かず、はくはくと声にならない息をこぼすだけ。

「……コイツ等の仲間じゃなさそうだな」


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