▼ 偶然は始まりの一歩
「ふぁあ」
ぼんやりと町中を歩きながら大きく欠伸をする。女子じゃあるまいし、手で隠そうなんざ思わない。
今日は日差しが良くて、あったかい。眠気が襲ってきたふらふらな足取りで、帰路をゆったりのんびりと歩く。とりあえず言うなら、「眠い」の一言だろう。
そんな風にいつも通りに歩いていた。そうやって知った道を進んでいたんだけど。
−−っ!
−−!−−がれっ!!
「……?何だ?」
脇道の奥から聞こえた物騒な怒鳴り声と、何かがぶつかる鈍い音。どう聞いても普通じゃないというか、日常では聞かないような。
「……」
好奇心に負けて、電柱に手をついてゆっくりと奥のほうを伺う。気付かれないように、そっと。
「……え?」
覗いた瞬間、黒い何かが、勢い良く飛んできた。避ける間もなく俺とソレは激突して、おもいっきり背中と腰を打ち、痛みに呻く。
「っ……〜、いたた」
上に乗っかったものを反射的に退かすと、呻き声がしたような気がした。
「うわあっ!」
横を見ると青ざめた顔のいかつい不良さん。
驚いて逃げようとしたけど、腰を抜かしてしまったらしく動けない。
(どうしよう、どうしよう……!)
頭の中はパニックになり、一つの単語だけが巡った。
――ふいに、先ほどまであんなに騒いでいた声が無くなりしん、と静かになっていることに気付いた。激しく鼓動する心臓を宥めながら、この不良さんが吹っ飛んできた方向を見る。
「ひっ!」
折り重なる人、人、人。皆、不良ばかり。そこに、一人だけ立っている人がいて……。
「なんだ、お前」
「え、あ……」
カラコンか、赤い色をしたその人の視線の強さに上手く口が動かず、はくはくと声にならない息をこぼすだけ。
「……コイツ等の仲間じゃなさそうだな」