彼と甘く触れ合って

 睦月の手を引いて、慣れない廊下を歩く。前の一件で学園中にバレてしまったためか、視線がびしばしと突き刺さる。興味、好奇、羨望。色々な混ざり具合にちょっと歩いただけでも疲れてしまう。幸か不幸か、その中に敵意が無いことが助かった。

「……皐月、だい、じょうぶ?」
「んー?うん。コレぐらいなら全然大丈夫」

 心配そうにする睦月に笑みを向けて、向かうのは職員室。目的は睦月とあの転校生の担任。チャラけて人を不愉快にする天才のところへ。

「……ふふ、楽しみ」
「……」

 くすりと笑うと、睦月が困ったように頭を撫でてきた。気持ちが良くて触れるだけじゃ物足りずに寮に取って返したくなる。
 でもとりあえず、あの教師の顔に何かしらの跡をつけてやろうかな。睦月が怪我を負った分、その体で責任を取って貰う。

「お邪魔します。今すぐ出てこい俺様もどき」
「だれがもどきだこの野郎」
「アンタ以外に誰がいるんですか役たたず」

 職員室に入ってすぐ目の前にいた、教師と言えない格好の睦月の担任。その人に笑みを投げ掛けると、直ぐ様返ってきた言葉に嫌味を投げ返す。

「ああ?そこの学年主任がもどきだろーが猫被り」
「失礼な、猫被りは昔の副会長ですよ」
「あの、二人とも……他の先生達がいなくなっちゃったんだけど……」

 笑いながらの応戦に、睦月が少し居心地悪そうに割って入ってきた。
 そこで周りを見ると、自分たち以外誰もいなかった。どうやら飛び火しないうちに職員室から出ていったらしい。

「……とりあえずこっち来い。ついでにいちゃつくな手ぇ離せ」
「嫌。ね、睦月」
「……ん、皐月」
「オマエ等は……」

 嫌そうに頭を抱えた教師を見ぬふりして、促された部屋へと睦月と手を繋いだまま入る。中にあったソファーに並んで座ると、後から入ってきたホストが前の椅子に座った。

「それで、ホス……先生、何の用ですか。せっかく睦月とぎゅうってしてたのに」
「ホストって言おうとしただろ。それにぎゅうってなんだ。オマエの口からそんな言葉が出るなんて思わなかったぞ」

 見た目ホストだし。ぎゅうはぎゅうだし。ね?と睦月を見るとほんやりとした笑みで首を傾げてた。うん、可愛い。

「あんま見すぎると弟に穴があくぞ」
「穴なんてあくわけないじゃないですか」

 む、としながら隣の睦月に寄り掛かると大きな手がまた頭を撫でてくれた。
 肩に擦り寄って甘えていると、前方から「はぁあ」とわざとらしいため息。

「……ちょっと、邪魔しないでくれません?」
「うるせぇ。帰ってからいちゃつけ」
「ホス……先生が用件を言ってくれないので、帰りたくても帰れません」
「おい、言ってる傍から何してる」
「座ってます」
「……そこはソファーじゃなく弟の膝だろ。柏原弟も降ろせ」

 長引きそうな話に、ひっつけないならと睦月の膝に座ったら疲れた表情のホストが睦月にひらひらと手を振った。これぐらい見逃して欲しいものだ。
 困り顔の睦月に目をやってからぎゅ、と抱きつく。どうせこの間の事の処理に関してだ。どういう態勢で聞いても支障は無いだろう。

「睦月、ぎゅう」
「……うん」
「だから離れろって。聞けそこのバカップル」
「うるさいですね。椅子投げますよ」
「弟の見てる前でか」
「睦月はそれぐらいじゃ離れません」

 本当にこのホスト……基い、次期理事長候補はむかつく。向かい合わせに座ったまま、視線だけをそちらへ向ける。

「とっとと話を進めてください」
「……わぁってるって」

 体を睦月に預けながら今後の対応と、次の生徒会についての話に耳を傾ける。早く終わらせて帰ろう。

 離れてた分は、まだまだこのくらいじゃ足りない。話して触れて感じて、もっと睦月に近づきたい。
 そう、思いながら睦月の背に腕を回した。


end

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