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突然ですが。俺には恋人がいます。見た目は凄い男前だけど、中身がいわゆるツンデレさんです。
「ほまれー」
「なんだ?」
「大好き」
「な、こんなトコで言うなっ!」
顔を真っ赤にして頭を殴られました。うん、こうやって愛情表現を全開にすると怒られるんだよね。
付き合い始めの時は照れてるんだなー、とか可愛いーとか思ってた。今も思うけど。
でもさぁ、こう……三ヶ月も経つんだからもう少しラブラブしたい。いちゃいちゃしたい。
だからゆるーく仕掛けるけど、めっちゃ拒否られる。なんだこれ。いい加減俺にも我慢の限界があるわけですよー。
そんなわけで。
放課後の教室。俺は、日誌を書いている誉を待ってます。椅子に膝を抱えたまま座って、日誌が黒で埋まっていくのを目で追いつつ暇つぶし。
「……」
「……青磁」
「ん?なぁに?」
ふと、顔をあげた誉に首を傾げる。誉は言いにくそうに口を開閉かせたけど、溜息をつくと「なんでもない」とまた日誌に目を戻した。
なんだろ?何か言いたい事でもあったのかな。誉の行動を不思議に思って眺めていると、見るなと猫や犬にするように手で払われてしまった。
「むむぅ……」
納得がいかない。俺は動物じゃないんだよー?失礼な。
俺は立ち上がると、日誌に集中している誉に気づかれないように背後へと回った。
「……?おい、青磁?」
「ふふーん」
背後に立ってようやく気付いた誉が、不審そうに俺を見上げる。誉の方が背が高いから、普段見上げるのは俺。見下ろすこの態勢は新鮮な感じ。とか浸ってる場合じゃない。
にっこりと笑ってから、がばっ!と広い背中に抱きついた。
「!?」
この行動には驚いたらしい。珍しく誉が手を出してこない。あ、固まってるのか。間抜け顔だよぉ。
「せ、な、きょっ!?」
「誉ー、日本語じゃないと俺、わかんない」
我に返ってからも顔を真っ赤にして慌てる愛しい恋人に、少しだけ気が晴れる。
パニックになっているからか、抵抗は思わぬ程に弱い。ぎゅうぎゅう抱きつきながら、何とか俺を離そうとする誉を観察しつつ耳元に口を寄せた。
「ほーまれ?俺のこと、すきー?」
「!」
あ、何言ってんだコイツ、みたいに見ないでー。俺は今、結構真剣なんだからぁ。
「だぁってさー?誉ったら告った時以来、好きって言ってくれないしぃ。他の奴には笑うのに俺には笑わないし?しかも全力拒否とか最近じゃ普通だしー。は?何それ?って感じでさぁ……」
「青磁?」
「……ツンデレもいい加減にしないとー、俺どっかいっちゃうかもよー?」
コレは冗談。俺から離れるなんてできない。好き過ぎるもんねー。でもちょっと寂しいとか思ったり。
後ろから抱きついてよかった。誉には今の俺の表情は見えない。今更かもだけど、情けない顔は見られたくないし。
「……おい」
「んー?なぁに?」
悟られないように、抱きついたまま緩く返す。いつも通りにできてるといいなぁ。誉はコレで微妙に鋭いから。
「……だ」
「んー?」
「だ、から……きだっ!」
「……え」
「好きだって言ってんだろっ!!」
何回も言わせんじゃねぇ!と、前に回していた腕を思いっ切り振りほどかれた。そのまま、ぐい、と制服を引かれる感覚。
「……え?」
誉の顔が近い。むしろ真正面。きょとんとしながら誉を見る。現在の状況、誉の膝の上に、俺。
「う、え?あ、ぇ、ほ、まれっ?」
「……〜、うるさいっ」
抱きしめられてます。
慌てて退こうとすると、余計に体に回った腕に力が入れられた。
「ほ、ま……」
「……黙らないと離すぞ」
「……」
耳元で囁れた脅し文句に、口を閉じる。誉のほうを見ると肩に顔を埋められて見れなかった。でも、赤く染まった耳だけがちらりと視界に映る。
わ、あ。やばい。嬉しい。なんだよもう。
「……い、いつ人が来るかわからねぇから……少しだけだからな」
「……」
こくりと頷く。ぎゅうと抱きつき返して、うりうりと誉の肩に額を押しつけた。ふんわりと柔らかい誉の匂いが鼻を擽る。
それから十分くらいだったけど、そのまま抱き合っていた。
end
「青磁」
「んー?」
「…………あ、……す、好きだからなっ!!」
「!うん、俺も大好きぃ!」