A Happening!

 思えばこれまでの人生は、平凡だけど平和で、結構恵まれていたほうだと思う。両親は寮に入った俺が心配なのか1週間に一度は連絡があるし、友人も趣味が変な奴もいたけど楽しい奴等ばかりで。

 でもある日、転校生が来た。隣の席になった季節外れの転校生。そいつは一言で言えば、変だった。
 いかにも鬘だとわかる黒もじゃに、度がどんだけ入ってるんだと聞きたくなるくらい分厚い眼鏡。それはまぁ、我慢できなくもない。問題は性格だ。
 純粋培養だかなんだか知らないが、ちょっと自分の常識とやらと違う事があればすぐに「間違ってる!!」と叫ぶ。言うのはいいが、正直うるさいしうざい。郷に入れば郷に従えっていうだろっつの。
 そんなこんなで何かあればその都度ぎゃんぎゃん騒いで、いつの間にか学園のアイドルとやらにちやほやされてた。そんでアイドル達は、近くにいる俺が嫌いらしく転校生のいないとこで文句をつけてくる。スルーしたら可哀想とか思って話だけは聞いてやってるけど。
 一番面倒な親衛隊のほうは、今のところ巻き込まれた平凡と言うことで見逃してもらってる状態。いつ制裁されるか危ないとこではあるけれど。まぁ、とりあえず。

「そこ退いてくださいませんか風紀委員長様」
「黙ってろ平凡」

 狭い掃除用具入れの中、学園ランキングで抱かれたいナンバー2の風紀委員長様とかくれんぼ中です。向かい合わせで密着状態です。

「ならせめて足を退かして下さい。踏んでます。痛いです」
「……チッ、退かすから口閉じろ。あのヅラに見つかったら落とすぞ」

 どこにですか。ヅラって誰ですか。突っ込みたかったが足を退かしてくれたので、口を閉じて黙る。
 腰に回った腕、密着した体。赤い髪の毛が目の前にあり、吐息が聞こえる程に近い整った顔。今の自分の状態にため息がつきたくなった。

 ――風紀委員長のファンに見つかったら、絶対にアウトだ。

 廊下を呑気に歩いていた数十分前の自分を殴りたい。


 ――数十分前。
職員室に用のあった俺は、付いてこようとした転校生とその他を撒いて廊下を歩いていた。一人という気楽さに鼻歌混じりでいたのだが。

「来んじゃねぇええっっ!!」
「っ!?」

 ガッチャン!というガラス音と一緒に、ドスの聞いた低い声。思わず振り返ると、めっちゃ怖い顔をした風紀委員長がこっちに向かって走ってきていた。
 思わず道を譲るように端に寄る。が、一瞬目が、合った。その瞬間、ぐい、と強い力で引っ張られた。

「え、はぁ!?」
「黙って走れっ!!」

 いや、委員長の方が叫んでましたが。言い返したかったが、余計に怒られそうだったから黙って走った。
 そして。見かけた空き教室に入り、そのまま用具入れに突っ込まれたわけで。

「……もう大丈夫か?」

 用具入れの外を伺うように、委員長が首を傾げた。そんなこと俺がわかるはずもないので、「さぁ」と小さく返す。

「……というか、委員長様は誰から逃げてたんですか?」
「あ?だからヅラだ」
「……もしかして、転校生のことですか」

 あだ名だと思っていたけど、転校生の鬘のことを言っていたらしい。

「アレ以外に誰がいるってんだ。つーか、お前、アレどうにかしろ。うざいしキモいし、しつこいしキモい」

 キモいって二回も言った。大切なことだからですかそうですか。

「いちいち俺のやることなすこと否定しやがって。俺のやり方ってもんがあんだよ。口だけじゃ理解しねぇ奴等に拳で教えて何が悪いってんだ」
「……アレはそういうもんですよ。誰が何を言おうと、変わらないと思います。現に俺が言った言葉はすべて、都合の良いように変換されてますし」
「……チッ」

 舌打ちが多い人ですね。役立たずですみません。

「……あれ、でも嫌がるわりに転校生のそばにいますよね?」
「ぁあ?」

 だって生徒会と一緒に教室に来るし。お昼の時も囲んで食べてたはず。
 いきなりどうしたし。

「……わからねぇわけ?」
「は?」
「そうか、お前は馬鹿だったな」
「え、」
「一つ教えてやる。俺があのヅラが目的で行動してるわけじゃねぇ」
「……う、ん?」

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