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 なら、僕にとっても友達の友達のはず。いくら見た目が怪しくたって、名前を教えることすらしないなんて失礼だと思う。
 それに、もし変な動きをすれば風紀が出てくるだろうし。大丈夫、なはず。

「ひゃかゆひ、はなひて」

 もごもごとくぐもった言葉だったけど、たかゆきは理解してくれたのか渋々と口から手を退けてくれた。手から伝わっていたあったかさが離れて、少し名残惜しかったけど仕方ない。
 僕は目の前で多分、たかゆきを睨んでいるだろうもっさりくんに声をかけた。

「えぇと、ぼくは副会長の市村」
「いち、むら?」
「うん」
「下の名前は?」
「んーと、下のなまえを呼ばれるのは苦手なの。ごめんね」
「じゃあ市村って呼ぶな!」

 納得した様子ではなかったけど、まぁコレで礼儀は果たしたと思う。実際に、下の名前で呼ばれるのが苦手と言うわけでないのだけど、彼にはこれで十分なはず。

「なぁ、市村!」
「ん、……なぁに?」
「お前もココで食べようぜ!コイツ等もココで食べるし!!」

 そうなの?とコイツ等と呼ばれている会計たちに目を向けると、今まで見たことないような顔でもっさりくんを見ていた。
 いつもきゃっきゃとしている双子たちでさえ、冷えた目をしている。わけがわからなくてたかゆきを見上げると、今度は目を押さえられた。

「え?え?」
「悪いが、コイツは俺と食う約束をしてんだ。そいつらもな」
「皆で食えばいいじゃんか!特別に、アンタも一緒に食ってもいいし!」

 近くと少し離れた場所から、苛立った溜息が聞こえてくる。視界が塞がれたぶん、耳が敏感になったらしい。誰かが固唾を飲んだ音も聞こえた気がする。

「ふぅ、仕方ないですね。会長、副会長と先に行ってください」
「かいけい?」

 会計の苛立ちを含んだ、押し殺したような声音が少し怖い。でもそれを宥めるように、繋いだ手に力がいれられ安心感が覆う。

「わかった。後は頼んだ」
「「まかせて!」」
「……ん、」
「え?ちょっと待てよ俺はまだ」

 もっさりくんの言葉の途中で、たかゆきに抱えられるようにその場から離れた。目はまだ手で隠されたままで、まわりがどうなっているのか把握できない状態だったけれど、ぼくを誘導する手が優しくて不安はなかった。

 気付けば、生徒会専用のスペースにいた。

「ほら、とっとと頼め」
「うん。……でも」
「アイツ等なら平気だ」
「そっか」

 たかゆきに断言されると、素直に頷くことができる。とりあえず、メニュー表を開いて僕の分のお昼を選ぼう。

「んー、Cコース!フルーツタルト付きで」
「わかった」

 結局、僕とたかゆきが食べおわっても4人はこっちに来なかった。


* * * * *


 美味そうにパフェとタルトを食う幸孝を見ながら、コーヒーを啜る。今頃、この壁一枚隔てた向こう側では、4人があのもっさりにこの学園のルールを教えているだろう。
 アイツ等が接触したのはアレが理事長の甥で、少なからず俺等に関わる事になるからだ。結果、不合格。アレは数日でこの学園からいなくなるだろう。

「喉につまらせるなよ」
「ん、」

 ぱくり。タルトが一つなくなった。


end

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