3

 リズの腕の中でみっともなく泣いていた。けど、気付けばそのまま眠っていたらしく、目を開けると優しく俺を見下ろすリズがいた。

「り、ず」
「うん、おはよう」
「……ぁ、」

 リズの名前を言葉に出して、自分の失敗にやっと気付く。……この人の前で、声を出してしまった。
 思わず手を口元にやるけど、一度出てしまったものは戻らない。

 ――これで、俺はリズといられなくなった。だって、俺は嘘をついてしまっかから。きっと、嫌われた……。

「ごめ、なさい……ごめんなさい」

 ごめんなさい、ごめんなさい。俺はアイツじゃない。
 口をついて出るのは、謝罪の言葉ばかりで。顔を合わせずらくて、逸らして下を向く。目が熱くなって、泣く寸前だ。

「ねぇ、泣かないで?君に泣かれると、僕も悲しくなる」

 顎に手を添えられて顔を上げさせられた。優しく囁かれてぎゅう、と抱き締められて、目を丸くする。

「……リ、ズ」
「ふふ、そんな声だったんだ。……可愛いね」

 可愛い可愛いと連呼しながら、頬や額に口付けられた。なんだか恥ずかしくて、慌ててばたばたと手や足を動かすけど、纏めてベッドに押さえつけられてしまった。

「り、リズ」
「可愛い。ね、名前を教えて?」
「……じ、仁。多田仁、です」
「ジン。ジン、ジン、可愛い」
「…〜っ、」

 とろけるような目で見られて、名前を囁かれて、体全体から力が抜けていく。
 どうしよう。リズが俺のことを可愛いって言うのは、拾われてからいつもだけど、ここまで甘い雰囲気は今までなかった。

「ジン、大好き。……愛してる」
「……ん、」

 思いもよらなかった言葉と一緒に、唇に口付けられた。呆然と、離れたリズの顔を見つめていれば、ふんわりと花が開くような笑み。

「ジン、返事は……?」
「あ、俺は……」

 いいのかな。俺がリズと一緒にいても。隣にいるのが俺でもいいの?

「ジン」
「……っ、」

 愛しそうに囁く声。全てを許されるような暖かい声音。
 その声に促されるように、俺は口を開いた。

「俺、も―――」


end

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