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親友のアイツが敵だと言われる相手に攫われたと知ったのは、事件が起きた二日後の事。何故教えてくれなかったのかと問いただせば、「心配をかけたくなかったから」と言われた。
どこかよそよそしい皆に、でも俺は素直に信じた。いきなり知らないこの世界に来た俺達を、快く迎えて優しくしてくれた人達だったから。
だから、知らなかった。アイツがそんな事をされているなんて。
敵であるこいつに教えられるまで、俺は知らなかった。どうして気付かなかったんだ。きっと、とても辛かったはずなのに。
これからは誰にも頼らずに、俺がアイツを守ろう。きっとアイツも、俺なら手を伸ばしてくれるはず。
だから、大丈夫だと思っていた。俺なら、と自信を持っていた。それなのに、どうしてそんな目で俺を見るんだ……?
「じん……」
「……っ、こ、ないで!来るなぁっ!!」
案内された部屋に、確かにアイツはいた。安心したように、穏やかな笑顔で寝ていた。
けど、俺たちの気配か声で起きたアイツは、一気に顔色を変えて……見たこともない、絶望の色変わった。
「やだ、やだやだ!」
「仁!落ち着いて、頼むからっ」
恐怖を映した目で俺たちを見る様子に、伸ばした手が宙を彷徨う。
近付けば近付くだけ脅えて体を震わせる仁に、部屋に一歩入っただけでそれ以上進むことができない。
「仁……」
「呼ぶなぁあっ!!」
名前を呼ぶのは友人だから。友達同士だから。互いに名前を呼びあって、笑いあっていた。
なのに、名前を呼んだ瞬間、拒絶を受けた。
「……ず、リズ!!」
「うん、ココにいるよ」
脅えて身を縮ませて叫んだ仁に、俺たちを過ぎて寄り添うようにベッドに腰掛けたのは金色。仁を抱き締めて、こちらに視線が移った。
「ぅっ、り、ず……」
「大丈夫、ココにいるから。離したりしないよ」
頭を撫でるソイツに、仁は俺たちから……俺から隠れるように抱きついた。その光景に、ぐずり、と胸に不気味な何かが溢れる。
なんで?どうして?疑問と絶望と、大きな嫉妬だけが頭を、胸の中を駆け巡った。
「リズ、リズっ」
「うん」
優しく抱擁する姿に、固まったままでいる俺を見るソイツは、目で語っていた。
『これでわかったでしょ?』
その瞬間、頭に血が昇って部屋に入ろうとした時、まるで何かに部屋から追い出されるように、体が後ろへと下がる。
手を仁に伸ばしたけど、仁は、一度もこちらを見なかった。俺たちの体が完全に部屋から出ると、ドアは勢いよく閉まった。
――ドアの向こうにアイツがいるのに、あんな奴なんかと……っ!!
「あー、やっとぉ?」
「……まさかリーズヴァルト様が、あの子に会わせるとは思いませんでした」
「まったくだ。こんな奴等に会わせても、何にもならんというのに」
ドアを叩こうとした瞬間、聞いたばかりの声に振り返ると、先ほど苦戦していた相手がいた。
「俺等の主人様は、あのおチビちゃんが気に入ってるんだよねー」
「それに私達も。可愛くて大好きなんです」
「だから、あの子を煩わせるものはいりません」
さっきまで好戦的な笑みを浮かべていたその人たちは、今まで見たことのない表情を浮かべていた。
――どうして気付かなかったんだろう、アイツが苦しんでいたことに。手を掴んでいれば、仁は今ごろ俺の隣にいたはずだったのに……。
意識が途絶える瞬間、そう確かに思った。