鳥籠の外を飛ぶ鳥

 あの子の部屋から出て、最も破壊音が激しい方へ足を向ける。楽しそうに響く笑い声と、苛立ったような怒声。どちらが敵でどちらが味方の声なのかがよくわかる。
 廊下の先の扉。それを開けばあの子を傷付けた奴等がいるのだろう。心臓を圧迫するように圧し掛かる黒い感情に流されかけるが、会う迄は理性を保たないと。

「こんにちは、皆さん。お楽しみ頂いているようで何よりですね」

 扉を開くと、楽しげに笑む部下達と対峙するように各々武器を構えた数人の敵国の英雄達。
 さて、この中の誰だろうか?あまり興味がなかったから、敵国の騎士達の容姿さえも確認していなかったんだよね。

「主人様よー、来るのが遅いんでない?いちゃいちゃしたいのはわかるけど、もーちょい早く来て欲しいんすけど」
「クラル!リーズヴァルド様にそんな口聞いてると、またサエラに怒られるわよ」
「いまさらだろ。馬鹿は放っておけ。それより主様、彼は……?」

 僕に気付いたクラル、エリシャ、カエリアが順に声をかけてくる。クラルとエリシャは何時もどおりに、カエリアは僕が出てきた扉のほうへ視線をやって少し心配そうに首を傾げた。

「大丈夫だよ」

 笑みを浮かべて言うと、カエリアは安心したのか息をついた。カエリアは、あの子がこの城に来た時から、僕が留守の時にちょくちょく顔を覗かせては構ってるらしい。
 少しの嫉妬を感じたけど、兄弟のようなやり取りは微笑ましいから好きにさせている。

「さて、我が城にどのようなご用件で?まさか友好を深めようなどという、笑えるような内容ではないでしょう?」
「お、俺は友達を返してもらいに来ただけだ!アンタ達と戦うために来たわけじゃ」
「ほう、武器を手に戦いに来たわけではないと?」

 挑発するように笑みを向けると、真ん中にいた金色の髪の顔立ちだけはとても綺麗な少年が睨みつけてきた。それに周りが微妙な表情で反応する。
 まるで、大好きなおもちゃを取られた子供のような。けれど子供らしくない嫉妬を交えた表情。その様子に、ああ、と合点がいった。
 そうか、君か。あの子を傷付けた元凶は。

「それにしても返せ、ねぇ?」

 どの口で言ってるのか。傷付けて追いつめて、それでも君の隣にいたあの子はもう限界なんだよ?それにさえ気付かなかった愚か者が、返せと?さも自分の物のように。
 あの子に敵意だけを向けるその場所に、帰せると思っているのか。

「ダメだよ。ふふ、そんなこと許せるわけないじゃない。あの子はね、もう僕のものなんだから」
「何言ってるんだよ!アイツは、俺と一緒に帰るんだ!!」
「……あの子が、そんな事望むわけないでしょ。ね、理由は知ってるでしょ?英雄の周りの方々?」

 くすりと笑えば英雄を囲む騎士達が顔を青ざめさせる。
 まさか僕が知らないとでも思ったのか。はたまた連れ去った彼を、どうにかしてると期待していたのかな。死ねばいいのに。

「何、どういう事だよっ!?」
「それは君のまわりに聞けばいい。……彼に手をあげていた本人たちだし、ね」

 どうやらやっと頭に僕の言葉が入ったらしい。はじめは疑っていたようだが顔をそらす仲間を見て、嫌悪したように表情を歪める。
 けれど、今更理解しても無意味だ。あの子が救いを求めていた時に、手を差し出せなかった自分を恨めばいい。
 そんな事を考えながら、一つの案が頭の中を過ぎる。

「……ああ、そうだ。なら、こうしないかい?」

 これ以上あの子を傷付けるわけにはいかないけど、こいつらを深く沈ませて二度と近付かないようにする為には、きっとこうするのが一番有効。

「あの子を君達に会わせてあげる」

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