▼ たとえばと囁く声
※直接的ではないですが、暴力表現があります。
ある日留学中の僕の下宿先に届いたのは、一冊のノートだった。それはここから遠い、日本にいるはずの弟の日記。
そこには、彼の最悪の日々が綴られていた。
そして、そのノートが僕の手元に届けられた日。弟は――自殺を計った。辛うじて命を取り留めたけれど、とても危うい状態だと弟の母から聞いた。
「……慎也」
目の前のガラス越しにICUのベッドに寝かされている彼が見えた。顔を見るのはいつぶりか。記憶の中の彼より、ずっと痩せていた。綺麗な黒い髪は乱雑になり、袖から覗く腕には傷痕が見える。
「慎也……」