たとえばと囁く声

※直接的ではないですが、暴力表現があります。



 ある日留学中の僕の下宿先に届いたのは、一冊のノートだった。それはここから遠い、日本にいるはずの弟の日記。
 そこには、彼の最悪の日々が綴られていた。
 そして、そのノートが僕の手元に届けられた日。弟は――自殺を計った。辛うじて命を取り留めたけれど、とても危うい状態だと弟の母から聞いた。

「……慎也」

 目の前のガラス越しにICUのベッドに寝かされている彼が見えた。顔を見るのはいつぶりか。記憶の中の彼より、ずっと痩せていた。綺麗な黒い髪は乱雑になり、袖から覗く腕には傷痕が見える。

「慎也……」



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