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 菜月の言葉にきょとりと目を丸くする。だって俺は先に帰れってメールしたし、わかったって返事もきた。だから、俺じゃなくて違うやつを待ってるのかと思った。

「……はぁ、もう。鈍いなぁ」
「だ、れが」
「伸行が。にぶにぶさんめ。俺はね、ずっと、ココで待ってた。伸行をね」

 真剣な眼差しが、俺を貫く。視線を合わせたまま腕を捕まれたまま、囚われたようにその場から動くことができない。

「……やっと目を見た」
「え……」

 ふいに安心したように表情を緩めた菜月に、気の抜けた声が出る。すると、そのままぎゅう、と抱きつかれた。

「ちょ、外っ!?」
「……朝からずっと。ずっと俺のこと見なかったよね」
「!」
「何で?」

 俺の肩に顔を埋めた菜月はむぅう、と唸る。
 そうか、コイツ視線を合わせなかったの気付いてたのか。理由まではわからなかったみたいだけど……。

「それでも、少しは進歩した方か」
「?なに……?」

 前まではどんなに怒っても騒いでも、それにすら気付かなかったくせに。
 溜息をついて菜月の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「あー、なんでもない。イライラしてただけだ」
「イライラ?何に?」

 宥めるように撫でながらぼかして呟けば、あまり納得していない雰囲気で奈月は分かりやすくむくれた。

「んんー……秘密」
「伸行ぃ」

 甘えた声を出してもダメ。お前がちゃんと自覚するまで教えてやらない。

「うるさい、ばぁか」
「ひ、ひどい……」

 とりあえず今日はソレで許してやるが、次は理由に気付よ。もし気付かなかったら、目を合わせないだけじゃなく一日話さないにしてやる。


 ――お前は、俺だけに笑ってればいい!


end

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