▼ 2
菜月の言葉にきょとりと目を丸くする。だって俺は先に帰れってメールしたし、わかったって返事もきた。だから、俺じゃなくて違うやつを待ってるのかと思った。
「……はぁ、もう。鈍いなぁ」
「だ、れが」
「伸行が。にぶにぶさんめ。俺はね、ずっと、ココで待ってた。伸行をね」
真剣な眼差しが、俺を貫く。視線を合わせたまま腕を捕まれたまま、囚われたようにその場から動くことができない。
「……やっと目を見た」
「え……」
ふいに安心したように表情を緩めた菜月に、気の抜けた声が出る。すると、そのままぎゅう、と抱きつかれた。
「ちょ、外っ!?」
「……朝からずっと。ずっと俺のこと見なかったよね」
「!」
「何で?」
俺の肩に顔を埋めた菜月はむぅう、と唸る。
そうか、コイツ視線を合わせなかったの気付いてたのか。理由まではわからなかったみたいだけど……。
「それでも、少しは進歩した方か」
「?なに……?」
前まではどんなに怒っても騒いでも、それにすら気付かなかったくせに。
溜息をついて菜月の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「あー、なんでもない。イライラしてただけだ」
「イライラ?何に?」
宥めるように撫でながらぼかして呟けば、あまり納得していない雰囲気で奈月は分かりやすくむくれた。
「んんー……秘密」
「伸行ぃ」
甘えた声を出してもダメ。お前がちゃんと自覚するまで教えてやらない。
「うるさい、ばぁか」
「ひ、ひどい……」
とりあえず今日はソレで許してやるが、次は理由に気付よ。もし気付かなかったら、目を合わせないだけじゃなく一日話さないにしてやる。
――お前は、俺だけに笑ってればいい!
end