▼ 笑顔は僕だけに
ニコニコ笑ってる顔は嫌いじゃない。でも、それが俺じゃない誰かに向けられるのはすっげームカつく。
そういうの、アイツはまったくわかってないと思うんだ。
放課後の学園内。補習が思ったより長引いて、校内から出る頃にはすっかり暗くなっていた。
先に帰るようにメールをしたから、アイツはもう寮に帰っているはず。鞄を抱えなおして、門を目指した。校門から出れば、数分で寮につく。
だらだらと帰路を歩いていると、校門に人影が見えてきた。
「?……菜月、か?」
金と赤に染めた髪と、缶バッチがところせましとつけられたカバンは菜月のトレードマーク。遠目から見ても誰だかわかる。
アイツ、何をやってるんだ?
菜月も俺に気が付いたようで、軽く手をあげた。
「何してんだ?」
「おーでむかえー」
「ふぅん、早く来るといいな」
出迎え、という言葉にずきりと胸が痛むけどそれを無視する。俺には、関係ない。軽く手を上げ返して、菜月の前を通ろうと、した。
「ちょーっと待った。何、先に帰ろうとしてんのー?」
腕を捕まれて足を止めさせられた。反射的に菜月を仰ぎ見る。
「何って……誰かの出迎えなんだろ?」
「誰かって……、目の前にいる伸行以外に、誰を迎えなきゃいけないわけぇ?」