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 日も暮れ村に夕食の香りが漂う頃、一つの家の戸を叩く音がした。家主が「はいはい」と戸を開けると、見るからに王都の騎士だとわかる装いの若者が二人、戸口に立っていた。
 村人は、その村では一番の家を持つ村長の元へと慌てて二人を送った。そこからすぐに村の中に「神子を探しに騎士がやってきた」と話が広まる。普段娯楽の少ない生活をしている村人達の幾人かは、嬉々として騎士を見ようと村長の家へと顔を出したが丁寧に追い返されてしまった。

「……すまないですなぁ。どうにも噂がこちらまで回って来ていて、まさかこの僻地にまで騎士様達が来るとは思っていなかったので……」
「まぁ仕方ないよ。見慣れない人がいたら興味が沸くのが普通だしね」

 すまなさそうに謝る老人にアーゲルトは無表情に、グライリーは苦笑を浮かべて答えた。どこの村も騎士が神子を探す為に訪れるとまるで神を崇め奉るかのように接してきた為、どちらかというと祭り騒ぎのように接せられる方がまだ楽だと二人はこれまでで理解していた。
 そこに、音を立てて少年が一人部屋へと入ってきた。少年は持っていた蒼いグラスを騎士二人の前へと置いていく。

「粗茶ですがどーぞ」
「そちゃ?」
「んー、あんま美味しくないって意味」
「これ、ディルク!」
「あはは、ごめんって。安心して、ミランダさんが淹れたんだ。ちゃんと美味しいよ」

 低く叱る老人は軽い調子で笑う少年に、深々と溜息をつくと騎士二人に向かって「申し訳ない、気にしないで欲しい」と頭を下げる。それに慌てて少年は老人の横に座って「すみませんでしたー」と呑気な声音で謝った。悪気の感じないその様子に、グライリーは愉しげに笑う。物怖じしない態度に少しの好感を持ったのだ。

「ディルク、というのか?」
「はい!両親がいないからココで世話になってます!」

 そわそわとした様子の子供にアーゲルトは、どこか懐かしい者を見る目になった。都に残してきた自分の弟にどこか雰囲気が似ていたのだ。しかし黒い髪に焦げ色の瞳は似た要素は無く、ただ好奇心に満ちたその瞳がまだ幼い弟を彷彿とさせる。老人に言われたのか慣れてない敬語を使おうとしているのも、子供っぽさが滲みでていた。

「子供はお前だけなのか?」
「そーですね。後は爺ちゃん婆ちゃんとか。あ、ええと騎士様達は神子って子を探してるんですよね?どんな人なんですか?」

 くったくなく笑うとディルクは床へと手を付いて身を乗り出し、期待に輝く目を二人の騎士へと向けた。そんな少年に、老人は呆れたように「これ、」と叱るが好奇心の固まりと化した子供は「男?女?すごい人なの?」と質問を増やしていく。騎士二人は、その様子に苦笑を交えながらも律儀に答えていった。
 そうしてディルクの好奇心がようやっと治まってきた頃には、夜も深々となってしまっていた。

「騎士様方、大変申し訳ありません。休める場所を用意しておりますので、そちらへご案内致します」
「あ、俺が案内する!」
「お前ももう休め。明日の朝も早いのじゃろう?」
「そうだけどさー」

 老人が立ち上がりこちらだと案内しようとすると、隣に座っていたディルクが手をあげる。それを話をそらすように促すと、名残惜しそうに騎士二人を見上げた。

「……後、二日程世話になってもいいか?」
「一応、周りとかも確認したいんでー」
「それではそのように手配致しましょう。精一杯のおもてなしをさせて頂きます」
「やった!明日もまた話を聞いていい?」
「ディルク、お二方は使命があっていらっしゃる。あまり迷惑をかけては……」

 窘める老人にアーゲイトは手を上げて制する。そうして好奇心と少しの申し訳なさを瞳に宿した少年の頭を大きな手のひらで撫でた。

「お前の仕事が終わってから、少しだけでいいなら話そう」
「約束な!」

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