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「聞いたか?王都の騎士様達がこのあたりに神子を探しに来てるらしいぞ」
「ああ、聞いたぞ。どうやら姿も名前もわからないらしい。どうやって探しているのか」
「もしかして、お前が神子かもな?ディルク」

 夕方の、夕日が落ちかけて空の色が紺に変わっていく中、賑やかに話していた男がその隣でクワを手にあくびをしていた少年に話しかける。少年は幼さの抜けない大きな目を瞬かせて、数瞬後にカラカラと笑った。

「ないない!神子ってアレだろ?不思議な力が使えてー、神様に愛されてーって人!俺が神様に愛されてたら、今頃は金持ちになってじっちゃん達に苦労させてないよー」
「ま、そうだな!」
「ディルクが神子だったらもっとしっかりしてるだろうしなぁ」
「あ、ひでー!」

 不満そうに頬を膨らませる少年に、男たちは笑い声をあげる。明るく響く声は村の中に響き所々家の中から顔を覗かせる者がいたが少年たちに気が付くと手を振ったり笑みを返したりと長閑な雰囲気が広がっていた。

* * * * *


 青い石を散りばめた剣を腰に携えた青年が二人、前方に見えてきた農村に立ち止まった。広い高原の中に幾つかの家が建てられて出来た集落。そこから見える建物は十程度、村民は大体三十人もいないだろうその場所は二人が仕える王により命ぜられて、神子を探しに来た場所だ。

「グライリー、あそこで最後か?」
「そ。俺らの最後の確認場所。東で一番端っこにある村だよ」
「そうか」

 グライリーと呼ばれた淡い蜜色の髪を細い指先で乱し、疲労が伺える声音で返す。それに対して、もう一人の青年は無表情に地図を確認すると一度息をついて懐にしまった。

「あそこにいなかったらどうしようか?」
「隊長に報告してから、また別の土地に探しに行くことになるだろうな」
「げー……アーゲルト、俺帰りたいよ」

 弱音を吐きつつも村の入り口へと向かう青年に、アーゲルトは苦笑を溢しつつその後ろを付いていく。

 ――王都から出立し三か月程経つが、ここに来るまで数重もの町や村を回ってきた青年達の胸中は複雑だ。
 探しても探しても神子は見つからず、共に派遣された術師や騎士達は疲労や怪我により王都に帰還せざるを得ない状態になった。二人だけになっても捜索し続けてきた彼等の、最後の場所が地図に載っていたのが奇跡に思うくらいの小さな村。
 ここで見つけなければ他の仲間達に見せる顔がない。しかし、この村にいるのだろうか?
 幾度も期待しては神子を発見できなかったことに、気付かぬ内に体ではなく身の内に疲労が溜まっていた事に二人は気がついていなかった。

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