▼ Cerulean Blue
授業終了の知らせ。昼休みを告げるチャイムに、手に持っていたシャーペンを机に転がした。
ようやく訪れた昼休みに、いそいそと机の上に出ていた教科書やノートを片付けて立ち上がる。授業中に届けられたメールを見てからそわそわとして仕方がなかったが、昼休みになったらなったで違う意味でそわそわとしはじめていた。
『昼休み、屋上』
短い文だったけれども、ようは昼飯を一緒に食べようというお誘いだ。昨日の放課後に出来たばかりの恋人は、対面では言葉が途切れないものの文面にするとどうもカタコトになるらしい。見た目からはわからなかった一面は、帰宅してから始めたメール交換で知ったばかりだ。
『着いたか?』
『明日は昼から』
『今?風呂入るとこ』
『おやすみ』
どれもとても短いけれど、相手のイメージに合う。あの顔で長文だったら、それはそれで楽しそういやでも笑いそう笑ったら怒られそう。そんなことを考えながら、弁当箱を手に教室から出ようとした。
「あ、空!今日はどこで食べよっか?」
「……篤、愁」
ドアを開けてすぐに、見知った、けれど一昨日までとはまるで違う雰囲気の二人。幸せそうな、その空気に浮かんでくる不快な感情に気がつかないふりをして笑う。
「あのね、今日は天気がいいから裏庭とか」
「あー、悪い」
この二人は自分たちが付き合うようになったと言っても、俺を抜いて二人だけで食うなんて発想はまるで出ないんだ。だって、篤は、俺の気持ちに気がついていないんだから。
「どうしたの?」
「いや、俺さ、他の奴と約束しててー。悪いけど二人で食っててよ」
「え?」
ことり、と首を傾げる仕草に目を細める。色素の薄い短い髪が少し頬にかかる、その仕草が好きだった、なんて言えない。だって、友達だし。だって、ほら。
「お前らは、」
付き合ってるんだしさ。ひきつった笑いかたにならないよう、なんとか笑った。けど、知らぬふりを通してるのに、愁からぶしつけに向けられる同情に満ちた視線が不愉快だった。
気づいてないだろ。お前が今、どんな目で見ているか。俺がどんなことを考えているか。全部、全部に見ないふりをして、何でもないふりをして上から蓋をして隠す。
「そんじゃ、またな」
大丈夫、笑ってればお前らは気がつかない。
――ガッ、……バタンッ
昼休みに入った少し後に屋上に響いたのは何かがぶつかった音と、ドアを開いた音だった。
騒音の主に心当たりがあったから(思えばアイツはここに来るたびに勢い良くドアを開けていた)、フェンスに凭れたまま出入り口に視線を上げた。
「……空?」
「あお、蒼っ」
ドアを開けた姿勢のまま立っていた空と視線が合った瞬間、泣きそうに顔を歪めた。慌てて立ち上がると、ふらふらとした足取りでこっちへと向かってくる。
どうにも様子のおかしい空に、両腕を広げると、体当たりをするように抱きついてきた。
勢いのまま飛び込んできた体に、僅かに揺れたがそのまま背に腕を回して抱き締める。そうすると僅かに嗚咽が聞こえてきた。
「し、視線が、嫌だ」
「……ああ」
「俺は、可哀想なんかじゃない」
「そうだな」
「俺は……っ」
何があったかはわからない。わからないが、空の片思いの相手とその恋人と何かがあったんだろう。