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 それで、呼び出した本人達は少し離れた場所でそれぞれ怪我を手当てしてる。そっちに視線を向けると、俺を連れ込んだいやにフレンドリーな人がにこやかに手を振ってきた。手が塞がっていたから少し頭を下げただけで、すぐに高坂さんへと戻す。
 ――それにしても、俺を餌にして呼び出した割りには一人ずつのタイマンでの勝負を申し入れていた彼らは案外良い人達なのかもしれない。それか、その、少し失礼かもしれないがお馬鹿なのかもしれないけれど。

「ねぇねぇ、紅蓮は甘いのとか好きー?」
「……」
「高坂さんはどちらかというと辛いものが好きみたいですよ」
「そーなんだ」

 さっき視線が合ったからか、ひょこっという擬音がぴったりな程唐突に近くに現れた人に、答えない高坂さんの変わりに俺が答える。なるほどなるほど、と呟くとその人は「俺ね、このチームの副総長なんだー」と話が変えた。

「そうなんですか」
「うんうん。でー、チームの奴らがアンタと拳を交えたいということで、何回か果たし状を出したんだけどー」
「捨てた」
「だよねー。だから仕方なく東吾くんを連れ込んじゃった」

 ごめんねー、軽い謝罪に高坂さんは眉間に皺を寄せるとしゃがんでいた副総長さんに向けて蹴りをかました。それを読んでいたのか副総長さんはキャー、と楽しげに笑いながら後ろに動いて避ける。

「高坂さん、絆創膏貼るんで動かないでください」

 蹴りあげた動作で貼ろうとした絆創膏がずれてしまった。む、としつつ言うと追撃しようとした動きを止めてくれたので傷口を覆うように絆創膏を貼る。

「紅蓮は怒りっぽいねー。総長みたい」

 あそこで伸びてるけど、とからからから楽しげに笑って副総長さんは、さっきの位置に戻った。どうやら向こうに戻る気は無いらしく、ふむふむと呟きながら会話を続ける。

「でさでさ、手当て終わったなら打ち上げでもしない?」
「……う、打ち上げですか?」
「うん。負けちゃったけど念願は叶ったからね。お菓子とジュースだけだけど。どよ?」
「帰る」
「そんなこと言わずにー!東吾くんも、ほら!」
「え?え?」

 ほら、と言われても。おずおずと高坂さんが俺を見ていた。どうするんだ、と聞かれているようで少し困る。特に予定は無いし、拉致られたと言ってもむしろ歓迎されていたと思うから怖くもない。だから別に打ち上げとやらに出てもいいような気がする。

「えと、高坂さんにこの後予定が無ければ……」
「ほら、東吾くんもこう言ってるしー……それに、今後の為にもお話くらいはしとかない?」
「……わかった」

 今後ってどういうことだろう。俺をちらりと見ながらの意味深い言葉に首を傾げたけど、二人は教えてくれなかった。


* * * * *


 騒がしい声が響くなかで、東吾を眺める。黒髪黒目の、特にこれと言って特徴のない容姿は色とりどりに染められた中では目立つ。もみくちゃにされながらも楽しそうに笑う姿に、自然と口の端が上がるが近づいてくる気配にすぐに元に戻った。

「やほ、飲んでるー?」
「……」
「不機嫌だねぇ」

 無駄に笑顔を浮かべてばかりいる面に、舌打ちをすると肩を竦められる。その姿に苛立ちを感じたが、それよりも重要なことがあった。

「おい、さっきの話」
「ああ、うん。紅蓮は、最近目立ってきたGARNETっていうチーム知ってる?」
「興味がない」
「んー、まぁ、そのチームがさ紅蓮、つまりはアンタを潰して名前を売りたいらしい」
「……」
「で、真正面からアンタに突っ込んでも勝てるわけがない。こーいう時、どうする?」
「……東吾か」
「当たり」

 こいつらのように東吾を捕まえて人質にする。俺を呼ぶのに、無力化するのには手っ取り早い方法だ。
 しかもこのにやけ面達のように、人質を取るだけでもてなすなんてことはしないだろう。違う意味でのもてなしはするだろうが。

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