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 そして、何故副会長が来て早々に帰ろうとしたのか。覗き見た会計が楽しそうなのか。理由はすぐにわかった。

(……おおう)

 思わず口に出してしまいそうになったがかろうじて副会長が口を手で押さえてくれた。副会長を見るとしぃ、と人差し指を自分の唇にあてている。さすがイケメン、様になる。
 副会長に大丈夫、と頷くと塞がれていた口が解放される。それと同時に背中がまた重くなった。視線だけ向けると、にやけたままドアを指差す。結局三人で閉じかけのドアの隙間から、生徒会室の中を覗き見るという不審な光景ができあがった訳で。
 しかし、今の俺達はそんなことを気にする余裕もなく、こそこそと中の様子を伺った。
 生徒会室には来客用のソファーがある。そのソファーに腰かけていたのは会長で、会長の膝に頭を乗せてカーペットを敷いた床に座る書記がいた。そこまでなら、いつも生徒会室で見る風景だ。しかし、問題点が幾つかあった。
 まず一つ目に、書記が会長の膝になついたまま手元にあるお菓子を「はい、あーん」の要領で会長に食べさせていた。リア充め。
 二つ目に、そんな書記に会長はいつもの不敵な表情はどこにいったというくらいに緩んだ笑みを浮かべている。リア充乙。
 そして三つ目。これが一番の問題。書記の服が乱れてるのは何故ですか。リア充爆発しろ。

「わぁー……どうする?写メる?写メる?」
「そんなことしたら音で気付かれますよ」

 こそりこそりと会計と副会長が頭の上で会話する。さすがに盗撮は止めておけ。覗いてたっていう証拠を自ら作ってどうする。
 イチャイチャという擬音語が聞こえてきそうなほのぼのとした光景を覗きながら、聞こえてくるのはどうやったら会長をからかえるかの話。
 どうやら会計はこの間、会長にコーラと偽って苦めのコーヒーを飲ませられたことを根に持っていたらしい。あのコーヒー、美味かったのになぁ。
 二人の会話を――副会長はせめて録音で譲歩してやれと言っていた。副会長、それは譲歩じゃない。――横に聞きながら、生徒会室内の会話が聞こえないかと耳を澄ませる。

「――円香」
「なに?」

 書記の黒髪を撫でながら会長は、ふいに書記の顔を上げさせた。会長の恋人に向ける甘い声にぞわりと背が震える。
 おあおおう。俺はノーマルなんだ。女の子が好きなんだ。落ち着け俺。
 背筋を駆け抜けたなにかを知らぬふりをして、恋人達のやり取りを見守る体勢に入った。

「不知火、先輩」
「ああ」
「不知火先輩」
「おう、円香」

 見つめ会いながら、名前を呼ぶだけのやり取り。それだけなのに何故かむずむずとした言い知れない感覚になる。

「……砂吐きたくなるってこーいうこと?」
「ですね」
「なるほど」

 帰りましょうか。副会長の言葉にようやく会計も頷く。俺はもう少しだけ見ていたかったが、二人により強制的に寮の自室に連行された。
 そうして寮に帰った俺達は、休日に生徒会室に行くときは会長に一度連絡を取るようにしようと決めた。


end

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