▼ 2
先に爆笑したのは水色だった。次いで黄色が肩を震わせはじめ、最後に紫が無表情ながらも手がプルプルと震えていた。
「ちょ、ははっ!ジュリエット!十一がジュリエット!ああロミオ様!なぜあなたはロミオなの?ぶはっ、マジ勘弁してよっ!く、ふははははっ!」
「わ、笑いすぎだ……くくっ」
「……ッ」
黄色が何とか水色を諌めようとするが、自分も笑いの神が降りてきているためにむしろ更に誘発されている。紫は手を震わせたまま、久住がいるだろう方向を見ていた。これだけ騒いでいれば起きてくるかもしれないから気になるのだろう。
だがあいつは睡眠に貪欲だ。この程度じゃ絶対に起きない。
「ひーっ!やばい!やばい!これはやばい!絶対見に行く!」
「おう」
笑いの発作が止まらないらしい水色は、しまいにはバシバシと自分の膝を叩きながら笑いはじめた。とりあえずこいつは放置して久住を起こそう。
笑い転げてる水色を黄色と紫に任せて、久住がいるだろう体育館裏に向かった。
「久住、久住?」
曲がり角から顔だけ覗かせると、建物の影になっている場所に御座を引いてその上に横たわっている目標を発見。近くまで寄ってみると寝息が聞こえてきた。
「……どうするか」
鈴木くん改め隊長は何をしてもいいと言っていたけど、どうやって起こそうか。考えながら寝てる久住の顔を覗くと、満足気な顔で目を瞑っていた。
「久住、久住。おまえジュリエットだって、笑える」
汗で額に貼り付いていた前髪を払ってやって、ぽつりぽつりと話す。相手は寝ているから独り言で幾分虚しいが仕方ない。
「面倒だよな。背で決められたんだ。あれは卑怯だと思う」
日本人にしては掘りの深い顔を眺めながら、金色に染められた髪を無意味に指先で弄る。それでもまだこいつは反応も無く起きもしない。
「面倒だ」
もはや口癖のようになってきてる言葉を口に出して、髪から手を離すと久住の肩をガシガシと揺らした。
「おら、起きろよ久住」
「あー……やしろ?」
「起きろ。教室に戻るぞ」
「むりー」
「戻るって言ってんだろ、ジュリエット」
「……は?」
「おまえジュリエット。俺ロミオ」
何言ってんだこいつ。みたいな目で見られたから、とりあえず手近なほっぺたをつねった。すぐに両手を上げて降参の意を示されたが。
「……あー、なるほどね。文化祭でロミジュリやんのか」
「鈴木くんが凄いやる気になってる」
「鈴木って誰?」
「文化祭委員」
「ああ、諏訪部」
説明を終えると、笑いながら名前覚えてあげなよ、と言われた。言われなくてもわかっている。けど仕方がない。なんとなくしか覚えられないんだから。
「ああ、でもいいね」
「何が?」
「公衆の面前でちゅーしても演出で誤魔化せんじゃん?」
「馬鹿か。クラスメイトは誤魔化せないだろ」
「大丈夫だよ、きっとノリでしたと思ってくれるから」
「まぁそうだとしてもしないが」
「しないの?」
「するわけないだろ」
「えー」
不満げな久住の襟を掴み、立ち上がらせる。とりあえず教室に戻らないと俺までサボりになってしまう。
嫌々と首を横に振る久住を引っぱって、まだ笑ってる水色と諦めたのかお菓子を食べていた黄色と紫に戻る旨を伝えてようやく教室に引き上げることができた。
end