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 大人しくしていると、確認を終えたのか委員長の手が体から離れる。ほっと息をつくが、いまだに上から退かない委員長にふと顔を上げてすぐにこの体勢を許したことを心の底から後悔した。

「い、委員長……」
「あ?」
「いや、あの……早く退いて頂けると嬉しいなぁ、なんて」
「何言ってんだ。退くわけがねぇだろ」

 先ほどの凪いだ視線ではなく、熱く濡れたブラウンの目が俺に向けられている。
 引かれるように風紀委員長の目の奥に浮かんだ熱を見つめた。そうして、吐息が感じられる程に近づいてきた整った顔にふと我にかえり慌てて顔を背ける。
 そうすると耳元で低く笑う気配。頭のなかでけたたましい警報が鳴り響いた時には、時すでに遅し。

「――好きだ。誰よりも何よりも大切にする。お前が俺のものになるなら、俺は全部お前のもんだ」

 甘い、砂糖菓子に包んだような声音で言葉が紡がれる。びくりと体を震わせると、宥めるように風紀委員長の長くしっかりとした指先が俺の頬を撫でた。
 その感触にまた身震いするが、一つ一つの言葉を感情と一緒に吹き込まれていくと何か底知れない、よくわからない気持ちが顔を出しそうになる。

「っ、」
「遠矢」

 低い声で名前を呼ばれると、頭のなかが熱くぐらりと揺れた。
 ああ、ありえない。俺は女の子が好きだ。ふわふわとして柔らかそうなその体が好きだ。それなのに、今目の前にいるのは自分よりも背の高いどう見たって男で、しかも喧嘩がめちゃくちゃ強い風紀委員長様。
 ありえない、ありえない。否定しながらも何度も繰り返し名前を呼ぶ声音と、体に触れる体温にどうしようもなく胸が騒いだ。
 たくさんの重りを重ねて蓋をしているのに、会話をする度、触れられる度に所々に開けられていく隙間から次々と溢れてくる感情は一体何なのか。

「遠矢」

 ――ああ、頼むから名前を呼ばないで!


end

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