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「失礼します」
隊長はドアを二回ノックした後、応えが来る前に開けてしまう。ノックした意味がないんじゃないかと考えていると、腕を離されて鞄を手渡された。
そうしてあれよこれよという内に、風紀室に入ってしまった。
「委員長、お連れしました」
「ん、遠矢」
部屋には委員長が一人。机の上に重ねられた仕事を片付けていたらしく、顔をあげないままこっち来い、と手招きされる。
しかし、わざわざ身の危険を感じる相手に近づくほど流されやすくはない。委員長がいる席の前に設置された四人がけソファーに座ると、鞄から課題を取り出していく。
「俺は隊長と課題をやりに来ただけです」
「それなんですが片倉君、先ほどの件でやらなければないない事が出来ましたので、申し訳ないですが委員長に教えて貰ってください」
「え、ええー」
「『先ほどの件』?」
なんだ?とようやく顔を上げた委員長に、隊長が転校生の先ほどの制裁を促す発言を伝えた。途端に表情を険しくさせた委員長は、低い声で潰せ、と一言だけ呟く。隊長はそれに慣れた様子で頷くと、風紀室を出ていった。
微妙な雰囲気を残して置いていかないで欲しかったです隊長。
「遠矢、あのもじゃ野郎になにかされてねぇか?」
「……今のところは大丈夫です」
「そうか」
委員長はペンを置くと椅子から立ち上がって、ゆっくりとこちらへ向かってくる。隣に座られると思わず身構えてしまうが、より一層警戒を強くしたほうが良かったかもしれない。
何故か気づいたらソファーへと押し倒されていたのだ。流れるような自然な動作でされた為、反応ができなかった。ぽかんと見上げると委員長は逃がさないと言ったようにのし掛かってくる。
そこでようやく真っ白だった頭が正常に動き、慌てて退けようとするが体格差に勝てない。
「ちょ、委員長離してください!」
「うるせぇ」
やばいやばい、この態勢はやばい!かつてない危機感に、ざっと血の気がさがる。足を振り上げ捕まれた腕を振り払おうとじたばた暴れるが微動だにしなかった。暴れまくって、力尽きたところで委員長の手が動き出した。
ぺたりぺたりと確かめるように体に触れていく。そこでようやく委員長の意図を察した。怪我がないか探っているのだ。
「委員長、怪我もしてないですよ」
「そうかよ、ただの確認だから大人しくしとけ」
それならそうと先に言って欲しかった。無駄にドキドキしてしまったではないか。
ペタペタペタ。そんな擬音が付きそうな触れかたに、とりあえず安心すると体から力を抜いて委員長の好きにさせる。