be surprised

 とある日から俺の学生生活は色んな意味で変わった。それまでにも転校生のせいで微妙な毎日を送っていたが、ある意味では転校生以上に手強い相手ができたのだ。
 俺様何様風紀委員長様である、加原類。その人に平凡を自でいく俺は、掃除ロッカーの中で告白をされてしまった。妖しい雰囲気を何とか蹴散らしてその日は逃げ切ったが、「好きにすればいい」と言った為か次の日から、一般人なら甘く蕩けそうな言葉を公衆の面前でこれまた強面が嘘のような優しい表情で囁くようになった。
 この時の俺の心境を、幾人かは理解してくれただろう。簡単だ。「オワタ、親衛隊に殺される」である。
 そして今日も今日とて、放課後になると風紀委員長は俺の元へと来るのだろう。ホームルームが終わったら鞄を掴んで即時に撤退をしなければならない。負ければ教室内で告白タイムがはじまってしまうのだ。
 教室に微かに響く、カチリカチリという時計の音と担任の声が重なる。それに集中して担任が下校の言葉を紡いだ瞬間、立ち上がった。

「達矢!」

 しかし、そんな時間との勝負に、毎度とある邪魔が入るのだ。そう、取り巻きの一人だと思い込んでいた風紀委員長が、実は俺目当てだったと知り怒り浸透な転校生。

「また類と帰るのか!?」
「……悪いけど、急がないといけないんだ」

 担任が「気を付けて帰れよ」と、珍しく生徒を気遣った言葉を掛けた瞬間、隣の席でずっとこちらを見ていた転校生が声をあげた。隣なのに無駄にでかい声を出した為、教室から出掛けていた担任やまわりの奴らがこちらを見る。そして「またか」という表情になると、視線が外れていった。

「類は俺と帰るんだよ!」
「ああそうですか頑張れ」

 ため息をつきながら鞄を手にして教室を出ようとすると、一人の少し背の低い少年が目の前にいた。気配の無い現れかたに驚いたが、にこりと笑う彼に慌てて離れようとすると腕を取られてしまう。

「片倉君、委員長からの伝言を伝えに来ました。今日は仕事で迎えに行くのが遅くなるとのことです」
「お、おう……、そうか」
「ですので、本日は風紀室の方へ来て頂けませんか?」
「……」

 柔らかく綺麗な笑顔で首を傾げるこの人は、風紀委員長の親衛隊隊長だ。一時期はこの人に対して腹黒さしか感じなかったが、いまはある程度の性格がわかった為、時折浮かべる笑顔に背筋が冷えるくらいになった。
 さてこの人だが、親衛隊隊長であるが俺と風紀委員長をくっつける為の応援隊隊長でもあるらしい。ことあるごとに二人きりにさせたがる。

「今日は課題があるから早く帰りたいんです」
「それでしたら僕もあります。ご一緒にしませんか?」
「いや、俺頭悪いんで……」
「僕がわかる範囲でしたらお教えしますよ?」

 三年ですから二年の範囲ならわかると思いますよ、なんて言葉に心が揺らいだがいやいやいや、と頭を振って誘惑を追い出す。

「おい、お前、類の親衛隊だよな!?こいつは類をタブらかしてるんだぞ!!何かしないのかよ!?」

 おいこら空気を読め。横でイライラとした雰囲気でいた転校生が、我慢が出来なくなったのか隊長に食ってかかる。しかも内容が、危ない。俺ピンチ?やばくね?なんて考えていると、隊長は俺の鞄を手に取ると、掴んでいた方の手に力をいれて俺を引っ張る。
 態勢が崩れそうになったが何とか踏ん張ると、喚く転校生を放置して教室から出てしまった。

「片倉君、転校生はどうやら危険な思考に突入したようですね」
「……そんな呑気に言わないで」
「安心してください。あのもじゃ鬘はこちらでどうにかしましょう」

 自信満々に言い切った隊長に、ありがたく思えばいいのか嘆いたほうがいいのか判断に付きかねた。
 そこでやっと気づく。腕を引かれるままに足を動かしていたが、こっちは風紀室の方向だ。諦め半分に隊長を見やると「なんでしょう?」なんて首を傾げられてしまった。

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