It is needless to say

「あ、戸張さん」

 本来の登校時間から数時間経ってから教室に行くと、黒板に『次の時間は実験室!』とでかく書かれていた。サボるか。早々に決めて教室から出た瞬間、背後から声がかかった。高くは無いが声変わりをしているのかと疑ってしまうアルトボイス。
 その耳慣れた声に振り返ると、やはりそこにはこの間、自分の親衛隊長となったばかりの奴がいた。

「お前か」
「昨日のお昼ぶりです」

 ニコニコとした笑顔を浮かべて、小柄なその体には重く見える教材を手にこちらに寄ってくる。
 その様子は飼い主をみつけた子犬のようだ。動きに合わせて揺れる茶色の髪が、余計に助長させているように思う。

「お前はどこにでもいるよな。暇なのか?」
「暇と言うか、戸張さんの後を追って写真に納めるのが親衛隊長のお務めです」
「……ストーカーって言葉を知ってるか?」

 当然のように笑う自分の親衛隊に少し引いてしまった。まさか、前の隊長もストーカーだったのか。
 そう考えてすぐに否、と打ち消す。あっちもあっちで少し変わっていたが、こいつ程ではなかった。はずだ。

「ストーカー。特定の他者に対して執拗に付き纏う行為を行う人間のことをいう。byウィキペディアです」
「お前、頭良いのに残念だよな」
「戸張さん限定ですよ。俺の頭は戸張さんだらけです」

 さらりとした言葉に流され勝ちだが、こいつは時々危うい言動をとる。それさえなければ、と何度思ったことか。
 この学校に来てから男に好意を向けられることには不本意ながら慣れてきたが、どうにもこいつからの感情は重すぎる。

「……まぁいい。それよこせ。どこに持っていくんだ?」
「え?あ……」

 重そうに抱えていた教材を腕から持ち上げた。

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