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「そこで何してやがる」
「ええと、見学です」

 いつも通りの口調と表情にさっきのは錯覚かと思ったけど、僕が彼の表情を見間違えるわけがないので気のせいではない。そんなことを思いながら返すと、委員長が僕に気が付いたのかこっちを見上げてきた。

「おや。何だ、そこにいたのか」
「最初からいましたよ、委員長」
「それなら君が止めてくれればよかったのに」
「無理です。僕が止めて、止める人じゃないですよ。それに、戸張さんの邪魔はしたくありません」

 僕が止めても聞いてくれるわけがないのに。首を横に振ると委員長は呆れたような、諦めたような視線で彼の方を向いた。

「お前、それでいいのか?」
「いいんだよ、委員長サマ。オイ、こっち来い」
「はい」

 何の話だかはわからないけれど、二人の会話を部外者ながら聞いていると上機嫌に笑った彼が僕を呼んだ。素直に頷いて裏庭に向かおうとすると、「待て」と呼んだ彼自身が止める。窓の外をもう一度見ると、すぐ下に彼がいて僕を見上げていた。
 それだけで何が言いたいかがわかった。つまりはこの窓から飛び降りろと、そういうことだろう。
 今、僕は2階にいる。高さからして骨折はしないだろうけど、失敗したら少し痛そうだ。

「……」
「早くしろ」
「受け止めてくれるんですか?」
「お前は軽そうだからな」
「お、おい、いくらなんでも危険だろ。都筑、止めておけ!」

 窓枠に手をかけて見下ろすと、彼が急かすように腕を広げた。それを見てよいしょ、と身を乗り出す。すると、僕等の会話の意味が分かっていなかった委員長が、ようやく慌てたように止めに入った。
 それでも僕は窓に足をかける。こんな事を彼に言われたのは初めてで、少し舞いあがってるかもしれない。だって、彼が受け止めてくれるってことは触れるのを許可してくれてるってこと。しかも僕の勘違いかもしれないけれど求められてるような、そんな感じがした。だから委員長、ごめんね。

「……行きます」
「おう」
「オイッ!」

 とっとと来い。そんな彼の視線に促されるように、二階の窓から飛び降りた。ふわりと浮いた後に、背が冷えるような感覚がした後すぐに重力で落下していく。そのまま暖かいものに包まれる感触に、無意識に閉じていた目を開いた。
 すぐ目の前に彼の顔。ぼんやりと見惚れていると、抱き抱えられたままの態勢で彼が歩き始める。慌てて首にしがみつくと、上から笑った気配がした。なんだか今日は機嫌が良いらしい。色んな彼に気がつける。
 しっかりと抱き抱えててくれるから落ちる心配はないけど、僕から抱きつけるチャンスなんて今しかない。そのままの体勢で、彼の肩越しに委員長を見ると疲れた様子で腕を組んでこっちを見ていた。

「どこ見てんだ?」
「委員長です」
「見なくていい。眼鏡になんぞ」
「誰が眼鏡だ。視力は両方とも1.0だ」
「そーかよ」

 どうでもいい、って小さく呟いたのは、多分すぐ近くにいた僕にしか聞こえなかったみたいだ。聞こえてたら委員長が食ってかかってるはずだし。
 どんどんと遠ざかる委員長を見てから、また首にぎゅ、と抱きつくと優しく背中を叩かれた。どうしよう、僕、今死んでも後悔しないかもしれない。そんなことをドキドキとしながら思っていると気づいたら調理室にいた。瞬間移動?なんて首を傾げたけど、ただ単に僕が腕の中を堪能している内に到着していたらしい。

「そこ座っとけ」
「は、はい」

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