act like a baby

 僕には好きな人がいる。告白して、振られて、諦められなくて見ているだけでも、と親衛隊に入った。1ヶ月くらいして、隊長を務めていた一つ上の先輩から、「君がやりな」と軽く言われた。
 どうしてか僕の意思は入らないまま、トントン拍子に話は進んで翌週には親衛隊の子たちから隊長と呼ばれていたのには驚いてしまったけど。
 急に決まったことなのに順応力が凄い、と感心して先輩に笑われた。引き継ぎすることは得になくて、とりあえず隊員の名前と顔を合致させられればいいらしい。それでも、名前を覚えられなくて結構大変だった。

「……今日も派手だなぁ」

 そんなこんながあって、日差しは強くても冷たい風が吹いている今日。裏庭に面した踊り場の窓に腕をおいて、怒声が飛び交う外の光景をぼんやりと他の野次馬たちと一緒に眺めていた。
 騒ぎの中心は僕の思い人であるけれど、その好意を向けている相手が楽しそうに殴りあっている時、腕力も体力も無い僕ができるのは見守ることくらいだ。下手に手を出して足手まといになるくらいなら、勝つとわかっている喧嘩の間に入ったりはしない。
 それに、どうやら今日はここまでのようだし。

「お前ら!何をしているんだっ!?」
「げっ、風紀!」
「しかも委員長だぜ」
「めんどくせぇ、逃げるぞ!」

 低く鋭い声が裏庭に響くと、楽しそうにやんちゃをしていた人たちが一斉に声がした方を見る。その中の幾人かは声だけで判断したのか、脱兎の如く走り去っていった。見事な逃げ足に彼らの普段の行いがわかる。野次馬も委員長の登場に我先にと散っていく。僕はそれをぼんやりと見てからまた裏庭へと視線を戻す。
 そこには、先程とは打って変わって、いらついた様子の彼と眉間に皺を寄せた委員長の二人だけが立っていた。

「何のようだ、委員長サマ?」
「校内での乱闘は禁止だと、何度も言っているはずだ。どうしてお前はそう、拳を交えたがるんだ?」
「俺の勝手だろ。アンタには関係なくね?」
「俺は風紀委員だ。喧嘩を止めるのが仕事だ」

 二人の声は叫んでいなくてもよく聞こえる。今にも噛みつきそうな物騒な雰囲気を醸し出す彼に、委員長は呆れたように溜息をついた。次いで、ふと何かを探すように頭を動かす。

「……そういえば今日はいないのか?」
「ア?」
「お前の親衛隊長だ」
「……。どっかにいるだろ。アイツが俺を見てない訳がないからな」
「そうか」

 僕のことが話題に出た。名前は言って貰えないけれど、僕のことだとわかることを言われると嬉しい。無意識に笑みが浮かんで、暖かい気持ちになる。

「で、何故こんな場所で暴れていた。今までは教室や校庭だっただろう?」
「この時間帯だからだ」
「?どういう意味だ」
「この時間帯ここにいることに意味があるんだよ」
「……」

 どういうことだろう?首を傾げていると、ふいに彼と視線が合った気がした。きょとんと瞬きをしても、やっぱり視線は外れない。そのまま見つめていると、先程委員長に向けられていたものより柔らかく目が細まる。あ、と思った次の瞬間には不機嫌そうな表情に戻っていた。もったいない、写真を撮っておけば良かった。

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