緩く、甘い、甘い

 「隊長が、生徒会に呼び出された」と隊員の一人に聞いたのは、放課後になってすぐのことだった。
 ああ、嫌がらせをあの子のせいにされたのか、と理解して教室の隅に視線をやると青い顔をした三人の会計の親衛隊たち。どうやら僕らの話が聞こえていたらしい。

「伊吹様、どうします?」
「……そっちはどうもしないよ。あの子なら鷹也様がどうにかするだろうし」

 あの二人は見てるほうが胸焼けをしそうなほどのバカップルだから、呼び出されたと言っても鷹也様がいれば神楽に手だしはできないはず。状況を楽しんでいたとしても、あの子の安全は守られたも同然。
 それなら、僕がすることはひとつだけ。僕らの、会長親衛隊隊長の手を煩わせた子たちにお仕置きをしないとね。
 椅子から立ち上がると、隣に立って様子を伺っていた後輩に視線向ける。それだけで理解した彼は、「用意をします」と教室を出ていった。扉の外に消えていく背中を見送って、さっきからこっちを見ている会計の親衛隊たちのほうへと向かう。
 まだ教室に残っている他の生徒の、好奇心に満ちた視線を感じながら三人の前に立つとにこりと笑みを浮かべた。

「君たち会計親衛隊の隊長に用があります。今すぐに連絡を取って頂けますね?」

* * * * *


 その後、証拠を手に合流した後輩と一緒に一仕事を終えた僕は鷹也様の部屋の前にいた。うまく鷹也様が神楽を助けていれば、二人はここにいるはず。
 コンコン、と軽いノックを数回。……反応はなし。もう一回とノックを今度は強めにすると、鍵が開く軽い音がした。

「お休みのところ申し訳ありません、鷹也様」
「伊吹か。暁の迎えか?」

 出てきたのは気だるげな様子の鷹也様だった。どうやら寝ていたらしく、下着だけで半裸状態。そんないつもどおりの格好を無視して、首を横に振る。

「いえ。転校生に嫌がらせをしていた会計の親衛隊ですが、証拠とともに風紀のほうへ回しました」
「そうか。ご苦労さん。他には?」
「現在ご報告できるのは以上です。しかし、副会長の親衛隊が静か過ぎるような気がします」
「ふん、あの猫かぶりの親衛隊だからな。裏で色々やってんだろ。調べられるな?」
「お任せください。鷹也様の側近に出来ないことはありませんよ」
「ふん、当たり前だな」

 しっかりと頷くと満足そうに、会長様が笑う。不敵な笑みは子供の頃から変わらない、と思う。他は色々と変わりすぎだけれども。

「それで、神楽は?」
「あ、伊吹くんだ」

 様子だけでも聞こうかと声をあげた瞬間、鷹也様の背後からひょい、と淡い髪色が覗いた。

「……神楽、大丈夫だった?」
「うん?うん、特には何もなかった。ワカメは美味しくなさそうだったよ」

 寝起きのふわふわとした笑顔に、自然と表情が緩くなるが間にいる方からの視線に、咳払いをして少しだけ表情を取り繕う。

「なにも無ければいいよ。それで、今日はこっちに泊まるの?」
「んー、」
「明日は休みだ。泊まっていけ」

 悩む素振りを見せる神楽に、鷹也様が頭を撫でながら優しく囁く。しかし神楽は僕と鷹也様を交互に見たあと、両手を広げてぎゅう、と恋人ではなく僕に抱きついてきた。
 なんとなく予測はできていたから、抵抗なくそのまま受け入れる。

「伊吹くん、ぬくいね」
「そう。帰るの?」
「うん、一緒に帰ろ」
「暁、抱きつくならこっちだろう?」
「僕は少し疲れたので癒されたいです」
「……」
「……鷹也様、神楽の趣向については仕方ないです。体格とかもどうにもできませんし」

 嫉妬を向けてくる主と甘えてくる幼なじみに挟まれて、ここはいつも平和だな、と片隅で思っていた。


end

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