会長と王道!

Caseβ:王道と一緒!

 放課後のせいか、人の気配がしない廊下。そこを通って今日も生徒会室へと向かう。
 その足取りは、いつものように軽くは無く、反対に重いとさえ感じる。どうしてか、なんてのは理解したくない程にわかっていた。
 まず一つ、過保護な双子。二つ、意味不明な副会長。三つ、無駄に覆いかぶさって懐いてくる書記。そして最後に、何故か必要以上に周りを警戒する会計がいるからだ。
 常日頃から自分の身は自分で守れと言われて育てられた俺にとって、それはなんともこそばゆく、そして若干、その感情が重い。
 幼馴染は今はそのくらいが丁度いいかもな、なんて格好つけて言っていたがどうにも腑に落ちないのだ。まず、俺は男だ。ここが男子校で少し危ない気配もあるが、ある程度の奴なら潰せるだけの力はある。何より、今までそうやってきたのだ、できない訳がない。それをあいつ等も知っているはずなのに、どうしてこうなった。

「あー……どうすっかな」

 昨日で、ある程度は片づけてある。だから毎日生徒会室に通わなくても大丈夫なのは、処理をしている本人だからわかっている。
 けれども性分か、少しでも仕事があると片づけなくてはいけないという気になってしまうのだ。

「きっとまた、器物破損だなんだの処理をしないといけねぇんだよな……」

 毎日と言っていいほどに回されてくる書類を思いだし、今日もどうせ来るのだろうと諦めている。あの系統は会長印が必要だから、俺がやらなければいけない仕事だ。
 自由気ままでいられる学生のはずなのに、何故今から疲労困憊の社会人みたいになってるのか。鬱々としながらも、仕方なく止めていた足を動かして生徒会室へと向かうためにノロノロと動き出す。

「あーっ!!」
「ひッ!?」

 ふいに廊下に大きな声が響いた。思わず変な声が出た口を、手で塞いで恨みがましく背後を振り返る。そこには地毛には見えない黒くてもさっとした髪に、分厚い眼鏡、制服をだらしなく前を開けたまま着ている、見覚えがあるような無いような生徒がいた。

「……誰だ?」
「人に名前を聞く時は自分からだって母さんが言ってたぞ!」
「それもそうか。じゃあな」
「え、名前は!?」
「俺、お前に興味ないし。誰だって聞いたのは条件反射だ。悪かったな」
「謝ったから許してやる!どこに行くんだ?」
「うるさい人種がいないとこ……あ、思い出した」
「何をだ?」

 きゃんきゃん騒ぐ生徒に、些か面倒くさくて適当に答えを返している内に徐々に相手のことを思い出した。そうだそうだ。このもさっとして、どう見ても人工的なカツラをどこかで見た覚えがあったんだ。

「この間、転校してきた奴か」
「!オレの事知ってるのか?ずるいぞ!」

 何がずるいかいまいちわからん。髪があることか?チラチラと視線をカツラにやってしまうのは、こう、人として仕方ないはずだ。
 ――それにしても、そのカツラ、きちんと洗ってるか?微妙に小枝っぽいのが刺さってるぞ。痛くないのか、アレは?

「聞いてるのか!?」
「聞いてねぇ」

 さすがにカツラを見過ぎたのか。転校生が文句を言ってきた。特に聞きたいことは無いし、こいつには用事もないんだが、どうしてこんなにも突っかかってくるんだ。

「聞けよ!」
「……じゃあ、なんで頭に枝が刺さってんだ?木登りでもしたのか?」
「は?え?どこに?」

 聞けというから聞いてみたが、いや、でも枝が刺さってた方がいいのか?確か頭に刺激を与えると毛根とかに良いとかCMで流れてたような。
 ああ、なるほど。わざと枝を刺してるんだな。そごで気にしてるなら、あまり触れてやるのも可哀想だ。

「それじゃ、俺は戻る。頑張れ」
「何を!?って言うか、名前……」

 いつまでも相手していると、どうしても視線がカツラの方に行ってしまうから、さっさと離れてやった方がコイツの為だろう。そう思い、肩に手を置いてから背を向けた。


end


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